第6話 手を握り合うわたしたち
「マクシテオフィル殿下、話をするだけでも相当つらいのではないかと思います。少し休まれた方がいいのでは?」
少し休んだぐらいでは、どうにもならないほどマクシテオフィル殿下の状態は悪化している。
それを頭では理解はしていても、わたしとしては言わなければならない言葉だ。
もう婚約式さえも難しい情勢ではあるけれど、それでも一秒でも長く一緒にいたい。
わたしの言葉を受け入れてくれたのか、その後しばらくの間、マクシテオフィル殿下は目を閉じていた。
その間に、わたしと話す為の力を再度貯めていたのだと思う。
やがて、マクシテオフィル殿下は目を開けた。
少し話す力が戻ってきたようだ。
しかし、多分。これが最期のマクシテオフィル殿下との話になるだろう。
そう思うと、胸が一杯になる。
マクシテオフィル殿下は、
「リデナリットさん、もし来世というものがあるならば、そこであなたとまた出会い、お付き合いをしていきたいと思っています。そして、お付き合いをしていって、もしお互いの心が通じ合うのであれば、結婚をしたいと思っています」
と言った。
先程よりも声はしっかりしているように思える。
でも最期の力を振り絞っていることが伝わってくる。
「来世でマクシテオフィル殿下とお付き合い、結婚……」
今まで想像もしていなかった話だ。
周囲には、前世のことも来世のことも理解をしている人はいない。
マクシテオフィル殿下もわたしも理解はしていなかった。
「空想の話でしかないのかもしれません。わたしも来世というものがあると今までは理解をしていませんでした。でもあなたとこうして別れることになってしまったので、存在を信じたい気持ちになってきたのです」
「そういうことだったのですね」
「突然こんな話を申し訳ありません」
「いえ、それは気にしていません。ただ今まで一度もそういう話をしたことはなかったものですから」
「来世がもし存在していたとしても、あなたに会えるかどうかはわかりません。もし合えなかったとしても来々世では会いたいと思っています。来世もしくは来々世に会えることをお祈りしながら、この世を去りたいと思います」
「ありがたいお言葉です。わたしもマクシテオフィル殿下と来世もしくは来々世で会えることをお祈りしたいと思います」
「ありがとうございます。わたしはリデナリットさんのことが好きです」
マクシテオフィル殿下の目から涙がこぼれてくる。
「こちらこそありがとうございます。わたしもマクシテオフィル殿下のことが好きです」
一旦は涙を抑えていたわたしの目からも涙がこぼれてくる。
マクシテオフィル殿下とわたしは手を握り合った。
「今世ではわたしのことを忘れて、素敵な方と幸せになってください。そして、来世と来々世では、あなたに会えることをお祈りしたいと思います。わがままなことを言っているのかもしれませんが、理解をしてもらえるとうれしいです」
「わがままだなんてとんでもないです。来世と来々世でマクシテオフィル殿下に会えるように、わたしも一生懸命お祈りいたします。でもわたしはマクシテオフィル殿下にもっと生きてほしいです。夫婦として人生を歩んでいきたいです。それが今のわたしの最大の願いです」
わたしの目からは涙があふれてきた。
後もう少しだけ、マクシテオフィル殿下と一緒にいたい……。
「ありがとうございます。そう言っていただいて、わたしはとてもうれしいです。わたしはあなたの幸せを誰よりも願っています」
それが前々世における、マクシテオフィル殿下のわたしに対する最期の言葉だった。
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