第31話 想いの強さ

 わたしたちは、結婚式から一か月の後、ようやく本物の夫婦になった。


 もうわたしは殿下の「お飾りの妻」ではないし、殿下との「形だけの夫婦」「白い結婚」でもない。


 少し遅くはなってしまった。


 しかし、今は、殿下との新婚生活を満喫している。


 結婚式当時のことを想うと、百八十度変化したといってもいいだろう。


 わたしは下のことが大好きで、しかも毎日、その想いは強くなっている。


 しかし、殿下の方はわたし以上だった。


 これは予想以上のことだった。


 この一週間、殿下は、夜一緒にいる時はもちろん、仕事以外の時間で、周囲に他の方々がいない状態でわたしのそばにいる時も、


「セノーラティーヌさん、好きです。愛しています」


 という言葉を、想いを込めて何度も言ってきていた。


 わたしも殿下に言っていた言葉だが、さすがに殿下ほど多くは言っていなかった。


 もちろんうれしいことではあるけれど、少し恥ずかしい気持ちもする。


 殿下は、公私のけじめをつける方なので、人前では決してわたしとラブラブなことはしないようにしている。


 しかし、夜、二人で寝室にいる時は、態度が一変。


 わたしにその愛を全力で伝えてくる。


 言葉だけではなく、二人だけの世界にも何度も入っていく。


 その度にわたしも殿下を想う気持ちが強くなっていく。


 わたしの殿下に対する愛はとても強いものだと自分では思っていた。


 しかし、殿下のわたしに対する愛はそれを越えるものだった。


 ここまでわたしのことを愛しているとは思わなかった。


 今日の夜も、


「セノーラティーヌさん、わたしはあなたへの想いをどう伝えたらいいのかわからなくなる時があります。もちろん、『好き』『愛している』とあなたには言っていますが、それだけではこの想いの強さは伝わらない気がしているのです。もっとあなたにこの強い想いを伝えたいです」


 とわたしに言ってきていた。


 これはわたしも同じことを思っていた。


 まだ殿下と相思相愛になっていない間はよく思っていたことだ。


 しかし、それは相思相愛になってからも悩むところは変わっていない。


 もちろん、以前に比べれば、わたしの想いは格段に伝わるようにはなっている。


 しかし、殿下に対しての想いはさらに強くなってきていて、今までのように、『好き』『愛している』と言っていても、自分の想いの強さを伝えきれない気がしていた。


 しかし、あせってはいけない。


 わたしたちは夫婦になって、それほど経ってはいない。


 その短い時間で、伝えきれること自体無理なことなのだろう。


 わたしは殿下に、


「わたしも殿下に対して、強い想いを持っています。それがどこまで伝わっているのか、心配になってくることは、殿下と相思相愛になってからも決して少なくはないです」


「セノーラティーヌさんもそうなのですか……」


 殿下は驚いている。


「でもわたしは最近。お互いの想いの強さは、これから一緒に夫婦として過ごしているうちに、自然と伝わっていくものだと思うようになりました」


 わたしがそう言うと、殿下は少しの間黙っていたが、やがて、


「セノーラティーヌさんのおっしゃる通りだと思います。わたしは、今まであなたに酷いことをしてきて、あなたのことを傷つけていましたので、その分あなたを愛していかなければならないと思っていました。あせってはいけないということですね。そして、一緒に過ごしていれば、お互いが持っている想いの強さというものは、自然に伝わっていく。わたしもそうだと思いました。わたしも自然に伝わっていくことを信じて、あなたのことを愛していきたいと思います」


 と微笑みながら言った。


 わたしも殿下への強い想いが自然に伝わっていくことを信じて、殿下を愛し、殿下に尽くしていこうと思うのだった。

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