わたしは王太子殿下と白い結婚をした。殿下はわたしのことを嫌っている。でも殿下は前々世でわたしと親しくしていた方だった。わたしは一生懸命、殿下に想いを伝え続け、殿下に溺愛されることを待ち続けています。

のんびりとゆっくり

第1話 殿下とわたしの白い結婚 

 わたしはセノーラティーヌ。ラフォンフィス公爵家の令嬢。


 今日、デックスギュール王国の王太子であるオディナルッセ殿下と結婚式を挙げた。


 誓いのキスも行い、結婚は成立したのだけれど……。


「セノーラティーヌよ。わたしはきみと夜を一緒に過ごす気はない」


 殿下の寝室。


 結婚初夜。


 ダブルベッドがあり、これから二人だけの世界が展開される場所。


 その場所で、殿下はわたしに冷たくそう言い放った。


「そ、それはどういう意味でございますか?」


「意味がわからないのか?」


「わかりません」


 いや、言っている意味自体は理解している。


 殿下は結婚初夜だというのに、わたしと夜を過ごすことを拒んでいるのだ。


 しかし、わたしとしては信じたくはない。


 今までの婚約中も、殿下とわたしは、二人だけの世界ところか、キスもしていない。


 結婚式後は殿下の姿勢が変わり、わたしを愛するようになると思ったのだけど……。


「これは、きみと婚約した時にも言った話なのだが、忘れているようだね。ではもう一度話すことにしよう。以前話をした時はわかりにくかったのかもしれないから、今度は、もう少しきみにわかりやすく言ってあげる。わたしがきみと結婚をしたのは本意ではない。政略結婚でしかないのだ。好きでもない人間と結婚して、これから一緒に過ごしていかなくてはならない。それはつらいことだ。きみだってそうだろう。好きでもない男とこれから一緒に過ごしていかなくてはならない。嫌なことだろう。それならもう最初から寝る所を別々にすればいいのだ。きみは王太子妃としての儀式的な役目だけを果たしていけばいい。きみとは白い結婚をするということになるのだ。そうすれば、きみにとってもいい話だし、わたしにとってもいい話になる。どうだ。これはきみのことを思いやってのことでもあるから、受けてくれるだろう」


 殿下は微笑みながら言う。


 この方は何を言っているのだろう。


「きみは王太子妃としての儀式的な役目だけを果たしていけばいい」


 本気で言っているのだろうか?


 殿下と婚約した時も殿下はこのような話をしていた。


 しかし、今までわたしは殿下にふさわしい女性になる為、一生懸命努力をしてきた。


 そして、わたしは殿下のことが好きになったので、殿下と会う度に。


「わたしは殿下のことが好きです。愛しています」


 と言って、心の底からの自分の気持ちを伝えていた。


 わたしの気持ちが殿下に通じて、殿下がわたしのことを好きになってくれれば、本物の夫婦になっていけると思っていたからだ。


 今までの努力は無駄だったのだろうか?


 夫婦というのは、お互いに理解し合い、睦み合い、支え合っていくものだと思う。


 夜をともにし、二人だけの世界に入っていくこと。


 これは夫婦にとってとても大切なことだと思う。


 二人だけの世界に入る。


 今まで経験したことのないわたしは、そのことを思うだけで恥ずかしくなる。


 でも、今はそういうことを言っている場合ではない。


 わたしは殿下と結婚した。


 殿下の妻なのだ。


 お飾りの立場でいいわけがない。


 言うべきことは言わなくてはならない。


「殿下、わたしは殿下の妻になる為にここに参りました。確かに、殿下のおっしゃる通り、わたしたちの結婚は政略結婚です。殿下がわたしのことを好きではないのは理解します。でもせっかくこうして出会い、結婚までした仲です。きっと、殿下とわたしは縁があったのだと思います。これからお互いのことを知っていけばいいのだと思います。わたしは今までも殿下のことを理解するように努力してきましたが、より一層努力をしていきたいと思っています。そして、今よりもっと殿下のことを好きになっていきたいと思っています。殿下の方もわたしのことを理解し、好きになっていただけるとうれしいのですが、もし半年経って、わたしのことを好きになれないのであれば、その時は儀式的な存在になることを甘んじて受け入れましょう」


 殿下は驚いた表情をしている。


「わたしはきみと白い結婚をしたと言っているのに……」


「わたしは殿下の本当の意味での妻になる為にここに来たのです。私から申すのは恥ずかしいことではありますが、今から二人だけの世界に入る準備もできています。どうぞわたしを案内してください」


 わたしは平然とした表情で言った。


 しかし……。


 二人だけの世界。


 想像するだけでも胸のドキドキは大きくなってきていた。

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