第38話 華麗なる学園の王子様

 春休みも目前に迫ったある日、わたしたちはいつものように、中庭の一角でお昼を食べていた。


「もうすぐ一年が終わりますのね。」まみやちゃんはほっと溜息をついた。


「あっという間だったね。」桜子ちゃんも感慨にふける。


「私にしてみれば、怒号の一年間だったよ。」

 暢気な二人とは違い、私は歴戦の記憶が思い起こされて、一人戦々恐々としていた。


「かれんちゃんは、1年生にして既に学校中のアイドルって感じだったよね。一年中話題を総なめにした期待の新人って感じ。」

 初音ちゃんは珍しく抽象的な表現でフォローを入れる。


「もう年度末なんだね。春休みが終われば、私たちも2年生か。」

 みんなは穏やかだったけれど、私は“年度末”というフレーズを聞くたびに、胸が締め付けられた。


「春休みといえば、ほら、神咲君の出国の日決まったんだって。終業式の次の日の土曜日。ICクラスのみんなとか、他にも仲良かった生徒足り地はみんな空港まで見送りに行くって言ってたんだけど、うちらはどうする。」

 不意に桜子ちゃんが思い出したように言った。


「え、もうそんな時期か。さみしくなるね。なんだかんだ関わり合ったし、せっかくだからうちらもお見送りに行こうか。」

かれんちゃんも会いたいでしょ。桜子ちゃんが同意を求めてこっちを振りかえると。


「私は___。」私は即答することができなかった。


 まみやちゃんから皇子のことを聞いた後、私はどうしても王子と二人きりで話が死たくて、何度か自分の部屋のクローセットの天井に据え付けられた、あの脱出口から、彼の部屋に言って直接話せないかと試みていた。だけど、彼がここに来なくなってからは、あの扉は王子の部屋の側から鍵がかけられているようで、入学式初日もそうだったように、こちらからは一向に開かない。学園生活では、彼は取り巻きの女の子に囲まれて隙が殆どないから、どうにも声をかけづらくて、そんなことをしているうちに今日の日を迎えてしまった。


 だから、このまま行けば、そのお見送りの日当日が、彼と話せる最後のチャンスだ。そう思うと、話したいことはいっぱい会ったはずなのに、今度は何を伝えたら良いわからなくなる。


「もちろん、私も一緒に行くよ。最後だもんね。」

 何とかそういった私の表情はどこかぎこちなかった。


___放課後


「かれんちゃん。神崎くんのお見送り、気が進まないのですか。」


 寄宿舎へ帰宅する道すがら、まみやちゃんが昼間のことを気にして尋ねてきた。


「ううん。全然そんなことはないの。あれから殆どまともに会話していないから、何を話したらいいか分からなくて。」私は正直に打ち明けた。


「そうでしたのね。」


「でも、もういいんだ。最後にお見送りができれば、私も気持ちの整理がつくと思う。」


「かれんちゃん。そうですわね。私もそばで最後まで応援していますわ。」


「ありがとう。」まみやちゃんの想いに励まされて、私は当日を迎えた。





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