第17話  日常編3

 ある日の夕方、私は一人で学生寮までの道のりを歩いて帰るところだった。校舎の裏側にある駐輪場の横を通って行くと学生寮までの近道になる。今日は1コマ授業が少ない日だったから、まだ明るいうちから駐輪場のあたりは放課後の学生たちでごった返していた。

 私は、あいも変わらずフリフリの服装で一人通りを闊歩する。今日は、ちょうど頭上の住んだ青空みたいな、パステルブルーのシフォン生地に、モクモク雲が漂う総柄のジャンパースカート。ジロジロと後ろ指刺される視線をかいくぐりながら私は呑気に今日の夕食のメニューなんかを考えていた。そんな時___。


 不意に、視線の先の人だかりが目に止まった。それは駐輪場の角を曲がって裏方の、人気の無いゴミ捨て場。その前に、数人の女子生徒たちが集まって何やら騒いでいる。ふと気になったのは、彼女たちが持っている何やら大きな紫色の布の塊。所々にキラキラした金色のプリント生地とか、馴染みのある細かいトーションレースの端が見えカッくれする。


私は、女子生徒集団に声をかけた。


「あの、そのお洋服って。」


振り返った女子生徒たちは目を見開いた。

「何、なんか用。」


 凄まじく感じの悪い言い方だった。そこに居たのは、普通科の制服を着た気の強そうな一段で。私を見て持っていた洋服を素早く後ろに隠すと、こちらを睨みつけてきた。


「それ、そのお洋服。どこで見つけたんですか。」

 見覚えのあるそのお洋服。見間違うはずもない。それは少し前にみよりちゃんに貸し出したものと全く同じ色柄の、新作のジャンパースカートだった。スカートの裾のプリントを見ればわかる。色とりどりに着飾った子馬たちが踊るカルーセル柄のプリント地。


「はあ、あんたには関係無いけど。」


「でも、それ私が持っていたものとすごく似ていて。」


「似ているものとか同じものを持っていたら、全部あんたのなの。」

 一団の一人が嘲笑った。


「なんで私達があなたの服を持っているの。盗んだとでも言いたいわけ。」

リーダーっぽい生徒が一歩前に出てきて吐き捨てた。


「これはね、もらったの。私らの友達から。その子がこんな服もういらないって言ったから、ここで遊んでただけ。あんたには関係無いでしょ。」

 

 よく見ればそれば、無残に裾の一部が破り捨てられて、所々レースも引きちぎれてボロボロのお洋服の残骸だった。ハサミで突き刺したのか、硬い綿生地の所々に大きな穴が空いている


「友達からもらったって、それは誰からですか。」

一人、心当たりがあった。でもそんなはずはありえない。何かの間違いではないか。


「だから、あんたには関係無いでしょう。」

 女子生徒はすごんだ。

 私は仕方なく引き下がった。でも、どうしても気になってしまって、私はそのまま普通科の校舎の方へ駆け出した。


 普通科の生徒の校舎は特待生校舎の隣、渡り廊下を渡って、敷地の中央にある。校舎の中には、まだ数人の生徒達が廊下を行き交っていた。私服の生徒はほとんど出入りしないから、ただでさえ目立つ私の服装に、廊下中から怪訝そうな視線が刺さる。階段を駆け上がって目的のクラスを探した。1-3組。みよりちゃんのクラス。中にはまだ数名の生徒たちが残っていた。クラスの後ろの方。帰り支度をしているみよりちゃんの姿が目に入った。

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