第6話 日常編1
午後の授業が始まって、私達に突きつけられた学園のもう一つの悲劇
「嘘でしょ…。授業初日から課題こんなに出されるの?
しかも何あの授業…。義務教育で習った知識が全く役に立たない。
ここは、大学なの?」
私は戦慄していた。クラスメイトの噂話なんでこの時の衝撃に比べればちっぽけなものだった。この時初めて気づかされた。たかが授業の間の10分程度の嫌な空気なんて、そのあとの一時間弱の恐怖の授業に比べれば造作もないことだった。甘く見ていた・・入学さえしてしまえば、授業なんてどうにかなると思っていた。私の学園生活は、恋に・友情に・おしゃれに勤しむものじゃないの?なんでここで唐突に現実を突きつけてくるの?勘弁してよ!
「本当ですわね、午前中まではゆるい授業ばかりでよかったと思ってましたのに、午後の授業から宿題がこんなに増えるなんて、明日までに全て片付くのか心配ですわ…。」
お嬢様学校の優等生であるはずのまみやちゃんも流石に表情が硬い。
「初日からこんなにハードだなんて…やっぱりここ授業は相当厳しいんだね。
今からほかの皆に遅れを取るようじゃあ、来季からは普通科に降格になっちゃうよ…それだけは勘弁」
私は嘆いた。
「そうですわね、なんとかしなくては。かれんちゃん、この宿題、夜にどちらかの部屋で一緒にやりません?二人で頑張れば、分担して片付けられますわ。」
「おお!いいね、そうしよう!」
どっちの部屋でやろうか?と訪ねようとしたとき、私は思い出した。
私の部屋は、もうすでに私だけのものではなくなっている可能性があるということに…。どうしよう。まみやちゃんが一緒にいるときにあいつと鉢合わせるような事が起きたら今度こそ一貫の終わりだ。
「ごめんまみやちゃん。私の部屋、実家からの仕送りが大量に届いてて、ちょっと散らかっちゃって、もしよければ、そっちのお部屋にお邪魔してもいいかな。」
「もちろん! 私の部屋でよければ、是非いらしてください。」
まみやちゃんは申し出を快承してくれた。
そのまま一緒に寄宿舎まで下校すると、その足で間宮ちゃんの部屋へと向かった。
「私の部屋もまだ荷物が片付き終わっていなくて、少し狭いかもしれませんが、どうぞ入ってくださいな」
「おじゃまします!」
入るとそこは私の部屋の間取りと大体似たような作りになっている一室だった。所々にまみやちゃんらしい小物で飾られている。すごい、女の子って感じのお部屋だ。
それからはひたすら必死に鬼のような課題を片付ける作業に追われた。まみやちゃんは本当にデキるお嬢様で、私一人だったら泣きそうだったところをほとんど全部教わる形でなんとか消灯時間前には全て終わらせることができた。
まだ消灯までは時間があったので、せっかくなのでお茶でも、とまみやちゃんが自慢の紅茶を入れてくれた。二人で一息つきながらも私は、部屋に戻ってからのことを考えて憂鬱な気分だった。変態王子はもう自室に帰ってくれているといいけど・・
「まみやちゃん、どうかしました?浮かない顔をしていますわ。」
私の憂鬱を察したまみやちゃんが心配そうに覗き込む。
「う、ううん。何でもないの。課題すごいねって思って。学園生活ってもっと楽しい事の連続、って思ってたから、今そのギャップに苦しんでいる」
「確かにそうですわね、でもまだ始まったばかりですわ。3年間もあれば、そのうち楽しいこともたくさんふえてきますわよ」
「そうだね―――。
ねえ、まみやちゃん、まみやちゃんはどうしてこの学園に入ったの?」
「私ですか?私は、親の母校がここだったからですわ、将来に向けての人脈も増えますし、カレンちゃんは?」
「見ての通り、制服を着たくなかったから、不純な動機でしょう?お金持ちでもない庶民がこんなところ来ちゃって、ってちょっと後悔もしてるんだけどね…。」
「そんなことないですわ。私、カレンちゃんみたいな人本当に尊敬しているんです。その、服装が、っていうとちょっと違いますが、そうやって自分の好きなことにまっすぐなところがです。
私の家は古い家で厳しい両親の元育てられたので、そのなんていうか、自分の好きなものをなかなか好きって言えないこともあって。自分に真っ直ぐに生きているかれんちゃんは本当に素敵だなと思っています。だから、誰になんと言われようと、私は今のままのカレンちゃんを応援していますわ・・」
まみやちゃん、なんという天使なんでしょう…。今日だけで2回もまみやちゃんの優しさで私は泣きそうになってしまった。もうほんとにこの子は、天使だ。悪魔に弄ばれる哀れな私を見かねて、神様がお遣わしになった天使なんだ。
「まみやちゃ、ありがとう。」
泣きそうになりながら言い返すと、まみやちゃんも微笑み返してくれた。
「さて、もうそろそろ寮の消灯の時間ですわ、隣に帰れなくなってしまう前に今日はここまでにしましょう。明日も早いですしね、睡眠不足はお肌の大敵ですわ。」
「そうだね、今日は本当にありがとう。またあしたね」
そう言って私はまみやちゃんの部屋を後にした。
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