第25話 ハロウィーンパーティー3
「おーい、かれんたち。今日は揃いもそろって決まってるじゃん。
みんなで魔女集会にでも行くのかい。」
廊下の向こうからゾンビみたいにフェイスペイントで血糊をべとべとにつけたアレックスがやってきた。
「当然ですわ。今日はとっておきですもの。」
「かれんが4人に増えたと思ったら、一番右にいたのはまみやか。全然気が付かなかったよ。みんなすごく似合っているじゃん。
ところで、肝心のかれんはどれなんだい。」
ボケているのか本気なのか知らないけど、アレックスは本当にわからないという様子で4人を見回した。
「かれんは私よ。今日は自慢の金髪じゃないから気が付かなかった?」
反対側の端から私は声を上げた。
「かれん!Oh My God!
今日は全然雰囲気違うじゃん。黒髪もすっごく似合っているよ。」
「後で時間があれば、レインにも見せてやってほしいな。
でも、今日は彼に近づくのは無理かもな。朝っぱらからやばいんだから。クラスでも、教室移動の時でも廊下中からキャーキャー悲鳴が上がっちゃってさ。」
「そうなの? ちょっと見てみたいかも。」
私の代わりに初音ちゃんが応答した。
今日はこのあと授業一緒の科目あったかな。と桜子ちゃんが時間割を確認しているとき、私はそばでついこの間のやり取りを思い出していた。
私が部屋でせっせとこの日のためのお洋服やアクセサリーを手入れしているときのこと、彼はそばで物見でもするように言った。
「まさに、かれんの為のイベントって感じだね。」
「もちろん、今回は正真正銘、私の大切なお友達のためだもの。私のために一緒にイベントを盛り上げようって言ってくれたんだから。期待に答えないとね。」
「麗しき隣人愛だね。」
「ところで、神咲君は何か仮装の準備はしているの。」
王子が仮装をするのだとしたら、どんな衣装を着るのか、正直めちゃくちゃ興味があったけど、あまりにも食いぎみに行くと警戒されそうだから、それとなく私は尋ねた。
「ハロウィーン。あれは異教徒の祭りだろう。俺には関係のない祭りだよ。
俺はそういうチャラチャラしたことは嫌いなんだ。」
ぴしゃりと跳ねのけられて、私はがっかりした。
「いっても、俺は半分日本人の血が入っているから。関係ないといえばそれまでだけどね。流石にアメリカとかの馬鹿な連中みたいに羽目を外したりはしないよ。」
「そうなんだ。」
という会話を聞いていたから、あまり期待はしていなかった。
「知っているかい?今日は放課後掃除の後、大ホールでイベントをやるんだ。また後で会おうよ。ジェシカなんかも君たちを見たら喜ぶぞ。」
次の授業に遅れちゃいそうだ。そういって、アレックスはまた教室のほうへ猛ダッシュで帰っていった。
「彼も流石ですわね。あんなに禍々しい風貌なのに、しゃべるといつものアレックスですわ。」
確かに。感心して眺めている私たちも実は時間がやばいということに気が付いて、私たちは急いで授業へと戻っていった。
それからの授業はこれまでにないほど充実しているといえた。2限目の物理の先生はなぜか茄子の被り物をして、紫の全身タイツをまとっており、授業そっちのけでクラスの全員にチョコレートボンボンの包みを配っていった。3限目は音楽だった。教室を移動しているときも、私たち4人はずっと一緒に行動していたけれど、クラスのほかの子たちや、見知らぬ普通科の生徒たちから通りすがりに声をかけられることが多くあった。それはいつもみたいな批判や陰口なんかじゃない。みんな私たちのコーデを素敵とほめてくれて、特待生クラスのなじみのない子たちも、お洋服について尋ねたり、褒められたりしてなんだか少し距離が知事待ったような気がした。音楽の授業では、バッハのもじゃもじゃ巻き毛のかつらをかぶった先生と、古いキリスト教の礼拝ソングを歌ってみんなで盛り上がった。
終礼のチャイムが鳴って、お昼の時間。教室にいた生徒たちは駆け出すようにして、広い校庭や中庭に集った。ここで始まったのが、THE撮影会。みんなスマホを片手に、ランチなんかそっちのけで、身近な人たちと写真を撮りまくった。仮装が決まっている何人かの周りには人だかりができていた。私たちも例外ではなかったし、物珍しいゴシックロリィタにみんな興味津々でやってきてくれた。集まる人たちの中には、何人か同じ系統のフリフリを着ている子もいた。目立つ感じじゃなかったけれどなんだかんだ、ロリィタ知っていてくれて、そして好きでいる子たちもいてくれている気がして、私は嬉しかった。
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