第34話 クリスマスの夜3
私は、頭が真っ白になった。やり取りを聞いていた観衆からどよめきが上がり、一部から歓声の悲鳴が上がる。会場にいた大勢が、私が彼の手を取るか取らないかという局面に注目している。
「こんなの、ひどいよ。」
私は小さくつぶやいてその場から逃げ出した。答えは出さずに、そして事態が呑み込めないでいる観衆をかき分けて、私はそのままホールから抜け出した。
出口へと×刹那、私はちらりと王子のほうを仰ぎ見た。彼は、さっきと同じように二階の観覧席からこっちを覗き込んでいた。やり取りをすべて聞いていたと悟った。彼は私を見つめていて、彼と目が遭った瞬間、彼は身を起こして観覧席から立ち去った。
「待って、お願い。」
私は出口を飛び出すと、急旋回してホールの外階段から二階観覧席への階段を駆け上がった。一歩遅かった。彼はすでに観覧席を後にしていて、そこはもぬけの殻。再度階段を降りようと階段の踊り場へ飛び出すと、こんな時に下ではなく上へとの上っていく人影が一つ。一か八か、私はその人影の背を負って、ホールの屋上へとつながる階段を昇って行った。
屋上の扉はいつもだったら施錠されているはずなのに、今日はなぜか空いていて、勢いよく扉をぶち破って屋上へ飛び込むと、視界の奥の方に微かに誰かが佇んでいるのが見える。
「神咲君?」私は恐る恐る声をかけた。
「かれんちゃん。駄目じゃないか。あんな最高のタイミングで答えも言わずに飛び出してきてしまうなんて。」
「あれは違うの。彼はまた私をからかっているのよ。」
「彼は、本気だよ。俺が確かめたから。」
「え?」どういうことかわからなくて、私は言葉に詰まってしまった。
「彼を選ぶべきだよ。今までのような自由な生活は遅れなくなるかもしれないけど、君に必要なもの以上を彼は惜しみなく与えてくれるはずさ。」
「どうしてそんなこと言うの。」
あんなに、今まで私に思わせぶりな言動をしてきたじゃない。散々突っかかってきて、今更ほかの男ところへ行こうなんて都合がよすぎる。
世闇にかすんだ彼の面持ちはここからでは伺い知ることはかなわない。
「私の、気持ちはどうなるの?」
私は泣きそうになりながら訴えた。今まで王子に振り回されてばっかりだった。それでも良いと思っていた。彼と一緒にいられるのなら、でも彼はあたしから離れていこうとする。だから離したくない。
「私、ずっと神咲君のことが好きだった。お願いこれからもずっと一緒にいてよ。」
彼に与えられるままで、満足していてはダメなんだ。欲しければ、彼の気まぐれではなく、心までも欲しいと願うのなら、彼にそれを伝えなければいけない。私も彼に与えなければいけない。だから___。
「ごめん。俺は君の気持ちには答えられない。君と一緒にはいられない。」
今まで散々、思わせぶりなことを言って悪かったよ。ほんの気まぐれだったんだ。君の気持ちをもてあそんでしまった。」
そう言い放った彼の瞳は氷みたいに冷たくて、表情からは一切の感情が読み取れない。
私は、言葉を失ってその場に立ち尽くした。彼はそんな私を一瞥すると、そのまま横を通り過ぎて去っていった。慰めの言葉もかけずに。私は、頭が真っ白になった。
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