花園かれんの秘密~夢見るロリィタ少女×いじわる王子様の秘密の共同生活!?~
秋名はる
第1話 華麗なる日常の始まり
「春風に吹かれ桜の舞い散るこの良き日に、本日ここ私立白鳥学園高等学校の入学式が盛大に執り行われましたことを心よりお慶び申し上げます。
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。希望と喜びに満ち溢れた学生生活がこれから始まります。」
緊張と期待の面持ちで学園長の挨拶を聞く大勢の新入生たち。それを見守る在校生と親達。喜ばしい入学式の一幕だった。しかし当の新入生たちは先程から、彼らの席の一番端に設けられた、一際目立つ集団に、興味を惹かれて仕方がないようだった。
ここ私立白鳥学園高等学校は、いわゆるお嬢様学校だ。学生の多くがお金持ちの家庭に生まれの温室育ち。中でも特待生クラスでは、大企業の社長令嬢か、御曹司がほとんどを占める超がつくほどのセレブ校。ここを卒業したあかつきには、有名大学への招待券と、日本を背負う社会人としての揺るぎない地位が約束されている。
その由緒正しき白鳥学園に3年前から、新しくICクラスなるものが新設された。それが彼ら。ICクラスとは、インターナショナルコミュニケーションクラスの略で、現代社会における国際化に対応するために、外国人学生や、帰国子女の学生を対象として設けられた。いわば日本に在住する海外セレブ向けのクラス。
このクラスでは学生の8割以上が外国人かハーフで、典型的なアジアンの私たちにとっては、腰を抜かしてしまうほどの、絵本の世界から抜け出してきたような美男美女揃いなのだ。しかも彼らの親はみんな揃って有名外資系企業や貿易会社の役員クラス以上。更には外国の駐在大使や、外交官の息子ばっかり。まさに顔も金も学も三拍子揃ったエリート集団。いくら英才教育を受けてきたお嬢様、おボッチャマだって、ここではちやほやされる側から、彼らにきにいられようとする取り巻きに早変わり。ここ数年の本校では風物詩となる光景だった。
しかし今年は、なんだかいつもとは様子が違う。新入生の何人かは、ICクラスでは無くその手前隣で、今では地味な集団と化した特待生クラスが整列する集団の中に、何やら異彩を放つ金色のシルエットがあることに気づいていた。金髪ブロンドのショートカットに、まるで傘を広げたように裾をなびかせたロングスカート。まるで西洋人形のようなその生徒は、特待生クラスが並ぶ新入生集団に見え隠れしていた。他の生徒に紛れて遠くからでは分からないが、間近に立っていた新入生達は皆、一体彼女は何者なのかと、好奇の目を向けている。
校長先生のお話が終わり、今度は学年主任より、今年の新入生一人一人の名前が読み上げられる。ICクラスから順に特待生、普通科クラスと続いていき、呼ばれた生徒はその場で大声で返事をしていく。問題の生徒は、特待生クラスのちょうど真ん中辺り、50音順でハ行の一番始め。
「花園かれん」先生が読み上げると
「はいっ。」背筋をピンと伸ばして、私は声高く返事をした。
出来れば私は、ロココ時代のおフランスには生まれなくとも、19世紀後半、ヴィクトリア朝のイギリス辺りに生まれたかった。
私がロリィタと出会ったのは、中学生の時だった。パステルピンクのワンピースにパニエを詰め込んだ全円のスカート。幼気なたれ目のメイクに、くるくるの巻き毛を垂らして、頭には大きなリボンを飾る。まるで西洋のアンティークドールのような少女の装い。
私は幼少期から、ズボンやジーパンを一切穿かない子供だった。幼稚園の時に転んでお気に入りの服を泥だらけにした時も、先生が貸してくれた代わりの服(ズボン)を断固拒否して、泥だらけのワンピースで帰ってきた。
小学校低学年までは、私はお姫様にあこがれる可愛らしい女の子だったけど、高学年になってくると、私の趣味は幼稚だと囁かれるようになった。中学生になってからは完全に変わり者になった。一緒に遊ぶ友達がいつの間にかいなくなって、陰で変わり者だとささやかれても、私の頭の中は、パステルカラーにひらひらのチュールレースやリボン、ユニコーンや妖精モチーフのおとぎ話のような世界観でいっぱいだった。変わり者と思われようが関係ない。
だから私はここに来た。この学園では、国際社会の多様性を受け入れる観点から、特待生とICクラスの生徒たちは私服登校が許可されている。そもそも私はこの学園には本来ふさわしくない庶民の出である。それでも私は、自分の高校生活を私の大好きな物で満たす為に猛勉強をしてここへ来た。人生に一度しかない「青い春」を存分に満喫する為なら、周りの目なんて気にしていられない。
というわけで今日の私は、春休み中から考え抜いた渾身の力作。まるで西洋人形のような、立ち襟長袖のワンピース、生地はエンジ色のレジメン柄で背中には大きなリボンが結んである。膝丈のスカートは三角形に膨らませ、生成り色のタイツにブラウンの編み上げブーツを履いていた。)髪型も待ちに待ったこの日のために入学前に綺麗に脱色して、ICクラスの金髪美人に負けないくらいの明るく染め上げた。隣に座っている男子生徒は最初私をみて固まっていたけど、私にしてみれば量産型ロボットみたいに揃っておんなじ服を着ている彼らの方が、よっぽど理解ができない。
学園長先生の長い話がやっと終わって、今度は新入生代表の挨拶になった。今年の代表者は、入学試験で成績一位を取ったICクラスの男子生徒らしい。会場のみんながが浮き足立つ新入生達の大本命。今日の目玉イベントだ。噂では相当な美男子で、なんでもどこかの国の大使の息子だとかなんだとか。一体そんな情報どこから仕入れてくるんだよって感じだけど、今のネット社会はなんでもお見通しみたい。
噂通り、壇上に上がった少年はびっくりするほどの美青年だった。ちょっと会場がざわついた。彼が今年の新入生代表。「神咲
確かに堀の深い中東系の顔立ちをしているけれどどこかアジア人の面影がある。濃すぎないアラビアンフェイスに栗色の髪、そしてここからでもはっきり見える透き通るような茶色い瞳の、ほんとうに御伽噺みたいな美青年。面白かったのは、そんな
___新入生代表の挨拶も終わり、いよいよ花の学園生活がはじまる。
学内には本校舎と、私たちの学ぶ新館校舎の他に、寄宿舎がある。ここ白鳥学園では、遠方や海外からの生徒のために個人寮が完備されている。私は遠方だし、特待生なら学費はもちろん、寄宿舎での生活費も大幅に援助されるから、庶民の私には本当に助かる。そんな訳でこれから3年間親元を離れて一人、令和のお貴族たちが集う学園へとやって来た。
入学式も終わり、この日はこれで解散。初めての一人暮らしにちょっとワクワクしながら歩き出すと、後ろから声をかけられた。
「あの、花園さんですよね?。
私、特待生クラスでご一緒させて頂きます、一ノ瀬といいます。
これからよろしくお願いしますね。」
振り返ると、可愛らしいお嬢さまがこちらに微笑みかけていた。長い黒髪をハーフアップにして、毛先はゆるかにコテで巻いてある。パッチりとした瞳には、カールしたふさふさのまつげが揃っていて、笑うとえくぼが可愛らしい。
「はじめまして、かれんで良いよ。こちらこよろしくね。」
私はにこやかに応じた。
「まみやと読んでください。かれんちゃん、とっても可愛らしいお洋服ですのね。」
「ありがとう。悪目立ちしていると思っていたけどそう言ってもらえると嬉しい。」
お洋服のことを褒めてもらえて、私は一気に浮足立った。
「とってもよくお似合いですわ。わたくし、幼い頃から少女趣味なものに目がなくて。まるでお人形みたいだと見とれてしまいます。」
「それに。」とまみやちゃんは隣のICクラスの一団が通りかかった方をみやって続けた。
「目立つといえば、私たちの隣にいたICクラスの方たちもかなり目立っていましたもの。明日から大変ですわね。私たちも彼らの影に隠れてしまわないように頑張りませんと。」
まみやちゃんは、喋り方こそTHEお嬢様って感じでびっくりしたけれど、話してみるととってもいい子だった。ご両親は金融関係の仕事らしいんだけれど、海外赴任で両親とも外国にいるらしくて、私と同じく寮生活をすることになったらしい。同じ寮生ということもありすぐに意気投合して、私たちは一緒に寄宿舎へと向かっていった。
入学式が行われた大ホールは本校者の裏側を通ったちょうど反対側にある。
この寮は5階建てビルで一階が談話室と食堂。2、3階が女子寮、4、5階が男子寮になっている。食堂は共用だけど、そこから男女の談話室への入口が、男女別になっていて、その先のエレベーターも別だから、同じ建物でも男女が一緒になることはまずない。
夕食もとり、夜になって二人してお互いの部屋に上がっていくと、偶然にもまみやちゃんと私の部屋は同じ階の隣同士だということが判明した。
「それでは、かれんちゃん、また明日。」
「うん。また明日ね」
ドアの前でお別れをして、私たちは別々の部屋に入っていった。ここは4階で、その角部屋、まみやちゃんはその隣、という位置づけになっている。どの部屋も広めのワンルームにトイレ、バスルームが付いていて、寮というより、マンションの一室みたいな豪華さ。さらになんとこの部屋にはウォークインクローゼットが付いている。さすがセレブ校、既にほとんどのスペースは私の自慢の私服たちで埋まっていて、明日からの出陣を待っている。
ただ、このクローゼットにはちょっとおかしなところがあって、部屋の奥からが階段状に段になっていて天井の脱出扉みたいなところに繋がっていること。天井の扉は鍵が掛かっていて開けられない。この上にスペースなんてないはずだし、あったとしたら上の階につながってしまうんだけど。まあ、服を着替える以外では使わない部屋だから気にすることでもないだろうと部屋をあとにした。
早めのお風呂に入ってからリビングでくつろいでいると、初日の疲れからか、私はいつの間にか眠ってしまっていた。
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