第4話 日常編1

 特待生クラスは、ICクラスと同じ新館という建屋にある。ICクラス設立時に新たに建造された小さな3階建ての建屋にはそれぞれICクラスと特待生クラスが隣り合って置かれ、一年生は1階の教室だった。


 何事も起こりませんようにと祈る思いでドアを開けた途端、案の定中にいた全員がふりふりの星柄ワンピースに身を包んだ私の方に注目した。教室がシーンと静まり返る。

(落ち着いて…。)私は自分に言い聞かせた。私の席は教室の一番奥の窓側のあたり。みんなの指すような暑い視線を一心に集めながらそそくさと机の間を進む。ようやく自席までたどり着くと、近くの席に座っていたまみやちゃんが心配そうにこちらを覗き込んでいた。


「かれんちゃん、大丈夫でしたか? 」

ようやく私が席に着くと、まみやちゃんが後ろから小声で話しかけてきた。


「だ、大丈夫だよまみやちゃん、心配しないで。」


「彼、昨日ちょっと頼みごとをされて手伝ってあげただけなんだけど、あんなに注目を集めるなんで、ちょっとビックリしちゃっただけ…。」

 つとめて冷静を装いながら私は答えた。


「そうだったんですか。確かに、彼の言動はいちいち注目を集めますからね、もう少し時と場合を考えて欲しいです。本当に、迷惑な方ですわ。」

まみやちゃんは私をねぎらってくれた。



「でも、一日目からもうあの王子に名前を覚えられた女子生徒なんて、ICクラス以外では花園さんが初めてだよ。特待生クラスの英雄だよ! 」


 突然、別の方向から聞いたことのない声がしたので振り返ると、ショートの黒髪にまんまるの瞳を見開いた少女が興味津々にこちらに身を乗り出していた。


「私、木下桜子(きのした さくらこ)。さくらこって呼んでね。二人ともよろしく。」


「花園かれんです。」

とりあえず私も自己紹介を返したあと、私は慌てて付け加えた。


「ほ、本当にそういうんじゃないんだよ、ほんの些細なことだったのに、あんな大騒ぎになるなんて。」


「「私も寮生だから、今朝のやり取りを見ていたんだけれど、今回は話しかけられたのが、かれんちゃんだから、一際目立ったいうのもあると思うよ。

ほら、その服とか。すごく可愛いけどめっちゃ目立つもん。神咲君もそういうのタイプなのかな?」

桜子ちゃんのすぐ後ろから、更にもう一人話に混ざってきた小がいた。


「私は雨宮初音。よろしくね。」

彼女は、茶色っぽい髪をお下げにしていて、えくぼの可愛らしい笑顔ではにかんだ。

初音ちゃんは神咲くんよりも、私の服装の方に興味があると言うように、ジロジロとこちらを眺め回している。



 確かに、こうして話している間にも、教室のあちこちから、私を伺い見る視線が刺さる。普通科クラスは学校指定の制服を着用するが、私服通学が許可されている特待生/ICクラスだからといって、私みたいに好き勝手な服装で来ているわけではない。みんなブラウスにスカートとか、パンツスタイルなどの、制服姿に寄せた、ちょっとカジュアルで落ち着いた服装の生徒がほとんどだった。彼らはみんなお金持ちだから、よく見ればさりげなく高級そうなブランド物のロゴやモチーフが見え隠れしている。


 その後も聞きたがり桜子ちゃん、初音ちゃんの対応に四苦八苦していると、ちょうど先生が教室に入ってきて私は何を逃れた。午前中の授業では、どの科目も初日だから自己紹介とかアイスブレイクのための交流ゲームがメインだった。クラスのみんなとちょっとづつ接する機会があったものの、女子たちは既に私を敵認識して疑わないって子や、ちょっと距離を置いて遠巻きに傍観してくる子ばっかりだったけど、一方で桜子ちゃんのように興味津々で話しかけてくれる友好的な子もいてちょっと安心した。


「かれんちゃん、今日はせっかく天気もよろしいことですし、ほかの皆さんも誘って、中庭の方でランチにしません?きっと良い気分転換になりますわ」


午前中最後の授業が終わると、後ろからまみやちゃんが声をかけてきた。


「そうだね。午前中はずっと教室から出なかったし、ほかのとこも探検してみたいかも。」

朝声をかけてくれた桜子ちゃんと、初音ちゃんの4人連れ立って。私達は中庭の方に向かっていった。



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