第11話 華麗なる死闘2
改めて自分のチームを見渡すと、特待生クラス生達も私と同じような心境であることが見て取れた。我々は、ICクラスの体育会系ガチ勢みたいな連中とは対照的にアマチュアを通り越して老人ホームみたいな両極端なメンバー構成。ガチ勢の攻撃なんかくらったらひとたまりもないって感じだ。ガチ勢が楽しそうにはしゃぎながら続々とコートの最前線を陣取る中、私たちか弱い一般人はコートの後ろの方で右往左往していた。
自分のチームを見回してみると、ほとんどがあまり話したこともない子達で、まみやちゃんとか桜子ちゃんとかは揃って敵チームだった。
「レイン。あんな奴ボコボコにしてやろうぜ。」
ブラッドの挑発を受けた王子チームのアレックスはいつにもましてやる気十分。あのブラッドを前にしても挑発をかます余裕ぶりだ。確かに、あの鋼鉄の胸板にボールが当たったとことでびくともしないだろう。
「そうよ。こっちには勝利の女神様がついているもの」
面白がってジェシカも続く。彼女はそう言って私の方を振り向いたが、私は静かに目を逸らした。
嫌になって現実逃避していると、突然、私の太ももにボールが直撃した。
「いたっ」
投げたのはブラッドだ。でもまだゲーム開始のホイッスルは鳴っていない。
「ぼやっとしてんなよ、スウィーティ。ゲーム開始したら、まずお前から退場させてやる。」
ブラッドはせせら笑った。とばっちりだ。私が一体彼に対して何をしたというのだろう。そもそも私は端から体育は見学していたはずだった。それがなぜか、今ところに引きずり出されて、身に覚えのないひどい当てつけを受けている。聞いていた自チームの保守派は青ざめて、一気に私の周りから距離をおいた。ブラッドは持っているボールを弄びながら、チームの奴らにポジションの支持をしている。
「やれるものならやってみろよ。」
突然、王子が冷たい口調で言い放った。ちょっと苛ついた様子で、真顔でこちらに向き直ると、ほかの人には聞こえないような小さな声でこう告げた。
「俺のメンツにかけて、何があってもあいつより先にボールに当たるな。出来なければ、今夜お前の部屋で楽しいことが起きることになる」
射抜くような目のその一言は、私を凍りつかせるのに抜群の効果を発揮した。これは私への殺害予告だ。もし今日これから、私が彼の思うような結果を出せなければ、今夜私は死ぬ事になる。それが精神的になのか、身体的になのかは想像したくない。
私は絶望した。正直言うと、こんなゲーム早々にボールに当たって退場しようと思っていた。女神=即身仏なんて笑えない。勘弁してほしい。私はブラッドに脅され、その上王子にも脅迫されてわけがわからなかった。
「大丈夫、かれんは俺とジェシカがカバーするよ。」
私の肩をぽんと叩いて、アレックスが励ましたけど、そんなことは絶望で放心状態の私の耳には入ってこない。
ピーっというホイッスルとともに地獄のゲームが幕を上げた。同時に大砲のような剛速球がコート内に飛び交う。コート内は大混乱、ボールに当たるまいとする大衆が津波のようにコートの左右に押し寄せて、パンデミックを起こしている。
敵は最初から私狙いで攻撃を仕掛けてきた。私は死に物狂いでそれを避ける、流れ弾にあたって何人かが倒れていく。コートは戦場と化していた。王子はそれを読んで、私を狙って飛んで来たボールをすかさずキャッチすると、相手コートに向けて見事なフォームで剛速球を投げていく。周りの人たちも次第に連携してボールを確保するようになっていった。序盤はどちらのチームも、体力の少ない特待生たちから外野送りにされていった。私はほかの人のフォローもあってなんとか逃げおおせていたけれど、ある程度人数が減ると今度は逃げるのに十分なスペースが確保されるから、どちらのチームもボールを相手に当てるのが難しくなって来ているようだった。その分、走らなきゃいけない距離が増えて体力を奪われていく。ボールを奪い、奪われるボロ沼の駆け引きが続くなか、ようやく、ハーフタイムのホイッスルがなり、私はその場に座り込んだ。
「なかなかしぶといじゃん、クソ女。」
肩で息をしながら、ブラッドが鼻で笑った。残念ながら、彼を含めた精鋭チームの程とんどが、まだ生き残ってコート内にいる。ただ、ブラッドが私をなかなかやる、といったのは案外お世辞ではないみたいだった。
自チームを見てみると、辛うじて王子とジェシカは生き残っているものの、どうやらアレックスはお先に天に召されたようだった。今コート内に残っているのはほとんどがICクラスの中でも運動神経抜群そうな生徒ばかり。長袖体育着でへばっている私以外みんな精鋭部隊がコートを占めている。戦況は、相手チームはブラッドを含めて8名、こちらは私を入れて6名だ。私はおそらく戦力には数えられないから、一人減って5名、大分分が悪い。
ちらりと王子の方を見やると、彼も肩で息をしていて、流石のかれも相当バテていることが見てとれた。でも、疲労で憂いを帯びた瞳はまるでギリシャの彫刻のよう。美しい栗色の髪は太陽を反射して所々金色に光って見えた。今はそれが汗で濡れて、袖で拭うと、汗がこめかみから流れ落ちていった。まさに水も滴るいい男。
「神咲くん、頑張って・・」
コートの外からは儚げな声で声援を送るのは、前半のうちにボールに当たるなどして戦線から外れた取り巻き女子たちだった。彼女らを含む外野の大部分が、既に自分のお役目を終え、危険のない客席から試合に熱狂するギャラリーと化していた。王子は、そんな彼女たちにも疲れを見せないお決まりの紳士対応で貫いていた。取り巻きの女子たちににこやかに笑いかけている。ギャラリーに愛想を振りまく余裕があるなんて、心配して損した。私はコートに向き直った。
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