第32話 クリスマスの夜
クリスマスも翌日に迫ったある日、学園の生徒たちは総出でクリスマスの飾りつけに追われていた。生徒たちは朝から学校中を駆け回って、教室や大ホールを手分けして装飾していく。今日は年に一度、生徒たちの親御さんも参加するお披露目の機会だから、見栄の張りたい学生たちは準備に余念がなかった。
「いよいよですわね。」まみやちゃんはいつもにもまして気合十分。張り切っていた。
「そうだね、全校生徒の前で踊るなんて緊張する。」桜子ちゃんは言葉に反してなんだか張り切っている。
みんながダンスお披露目の話題で盛り上がる中、私は一人上の空だった。王子とのあの夜の一件があった次の日から、彼は私の部屋に一切顔を見せなくなった。願ったり叶ったりだといえばそれまでだけれど、こうも一切接触がなくなると逆に不安になる。学校でも授業が一緒の時でも彼が私に必要以上に接近したり、声をかけてくることはなかった。あんな身勝手な終わり方なんてずるい。だからといって、こっちから声をかけに行くのもなかなか勇気が出ないし。
「そういえば、皆さんは本日の夜会衣装の準備はばっちりです?」
「私はこの前の休日にママとお出かけして選できたよ。」
「私もそれっぽいパーティドレスいくつか持っていたから、それを準備してある~。」
「かれんちゃんは、大丈夫ですか? なんだか最近元気がないようですけど。」
まみやちゃんは私と王子の関係が最近ぎくしゃくしてることに感づいていた。
「うん。大丈夫ばっちりだよ。着るものに関してはブラッドの奴がうるさく言ってきているから、それを着るつもりだよ。」
「では、午後の授業が終わったら、また皆さんで集まって私の部屋でお召替えをしませんか。」
まみやちゃんが提案して、私たちは放課後彼女の部屋にいったん集まることになった。
自分の部屋に戻ると、ソファの上に無造作に置かれた大きな白い箱と包み紙を取り出した。
一昨日の放課後のこと、私が一人寄宿舎へと帰宅していると、ブラッドがやってきた。手には何やら大きな白い箱を抱えている。
「明日の衣装はこれを着て。君に会うと思って選んだんだ。」
手渡されたそれにはよく見ると、ハイブランドの高そうなロゴが箱の中央に大きくプリントされている。
「あ、ありがとう。終わったらクリーニングして返すね。」
「それ俺への当てつけのつもり?
君のために選んだんだから君にやるよ。サイズも君に合わせて作ってあるんだから。ほかの誰にだって着こなせない君だけのものさ。」
「あ、ありがとう。」
複雑な思いだけれど、一応受け取っておいた。きっと彼にとってはこんなドレスの1枚や2枚をしつらえるなんて、なんてことはないだろうと思ったから。
「____当日を楽しみにしているから。」
そういって手渡されたそのドレスが、私の手の中にある。
それは粉雪のように溶けてしまいそうな薄いサテンを幾枚にも重ねて、きゅっとリボンで締め上げた腰元にかけて段々と淡い葵色を織りなすひざ丈のドレスだった。よく見ると、胸元から裾までの布地全体に、さりげなくクリスタルの粒が縫い付けられていて、明るいシャンデリアの下で揺らめくときらきらと輝く。彼の言う通り、私の体にぴったりと合っていて、開いた胸元から腰元にかけての体のラインを緻密に形取っている。
「かれんちゃん。すっごく似合っているよ。もの凄くゴージャス」
ドレスを着るのを手伝ってくれていた桜子ちゃんが思わず感嘆のため息をついた。
確かに、鏡を覗き込んだ私の雰囲気はまるで別人に見えた。今日は自慢の金髪ボブは淡いブラウンに一時的に染めていて、ショートヘアがわからないようにアップスタイルにしてエクステで持っているから。もはやはたから見たら私とはわからないだろう。
「いつもの雰囲気と全然違うね。かれんちゃん色白だから、こういうのもすごく素敵。」
「まったく、ブラッドも抜け目ないやつですわ。彼はいったい何をぼやんぼやしているのでしょうか。このままでは本気でかれんちゃんを奪われてしまいますわよ。」
そばでまみちゃちゃんはやきもきしていた。
「今夜だけの特別だからね。明日にはまた元通りになるよ。」
私はさりげなく念押ししておいた。時間もいよいよ迫って、私たちは大ホールへと向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます