第14話  日常編3

ある日、いつもの様に授業を終えて帰宅していると後ろから声をかけられた。


「こんにちは。あなた、かれんちゃんだよね。」


 振り返るとなんとそこには普通の女の子。

いつも騒がしい男子がからかってくるのやら、気の強いお姉さまの連れ違いざまの嫌味ったらしい小言を聞かされていた私は、目の前に何の変哲もない女の子が立っていることにびっくりしてしまった。


 見覚えのない子だったけれど、学校指定の制服に黄色いリボンを結んでいるから、私と同じ一年生で普通科の生徒だということがわかった。


「突然話しかけたりして、ごめんなさい。

私、絹屋みよりって言います。

 実は、前々から気になってたんだけど、その、私もロリータが好きで、もし、仲良くなれたらって。」


 ぱっつん前髪ロングをたらした、ぱっちりおめめが可愛らしいみよりちゃんは少し恥ずかしそうに話している。

 次の瞬間、私は目を見開いて、目にも留まらぬ速さでがっしりとみよりちゃんの手を両手で握り締めていた。


「え、もしかして、みよりちゃんもロリィタ好きなの!?

嬉しい。めっちゃ嬉しいよ!まさかこんなところでロリィタ好きな子に出会えるなんて。」


 脊髄反射とはまさにこのここと。興奮のあまり、まるでみよりちゃんに掴みかかるように飛びついてしまったことを慌てて取り繕うと、みよりちゃんはまた恥ずかしそうにはにかんだ。


「あろがとう。実はそうなの。まだお洋服は持っていないんだけど、憧れてて。

 かれんちゃんは、寮生なんだよね? 私は、普通科で通学なんだけど、良かったら今度放課後とか遊ぼうよ。お洋服のこととか語ったり、色々お話したいな。」


「もちろんだよ!めっちゃ語ろう。」


 私は飛び上がって喜んだ。ロリイタ好きの同士に出会えて声をかけてもらえるなんて、まるで奇跡みたいだ。



 次の日のお昼休み、昨日あったことをまみやちゃんに報告していると、ちょうどそこにみよりちゃんが通りかかった。みよりちゃんは4・5人のグループに混じってこっちに手を振ってくれていた。


「あれがみよりちゃんだよ。ロリィタが好きらしくて、昨日声かけてくれたんだ」


「とっても素敵な方ですわね。可愛らしくて、かれんちゃんみたいなお洋服が良く似合いそうですわ。」

まみやちゃんは穏やかに微笑んでいる。


「ほんとうは、是非まみやちゃんにも着て欲しいんだけどな…。」

 私が意味ありげな視線を投げかけると、まみやちゃんは笑った。


「嬉しいお誘いですけれど、私はかれんちゃんの愛らしい姿を一番近くで見ることができるだけで幸せですから。」

と、いつもの調子でさらりと流されてしまった。


 でも私は諦めずに密かにまみやちゃんをこちらに引き込もうと画策している。こればかりは、私が粘り強くアプローチを続けていくしかない。


「そういえば、もうすぐ夏休みですわね。かれんちゃんも休暇中はご実家に帰省されるんですの。」


 そうか、気づけば季節はもう夏本番。来週ある期末テストが終了すれば、私たちは高校生最初の夏休みに入る。


「私はまだ迷ってるんだよね。帰るとしても短期間で、半分はこっちで過ごそうかなって思ってる。私、出身が地方だから、東京に出てくるのは初めてだし、こっちの生活も満喫したいなって。」


 夏休みの期間中。寮生たちは一時帰省を許されている。ICクラスのみんなもほとんどが母国や国内の家族のもとへ帰るだろうけど、部活動などで一部休み中も学校に通う生徒がいるから、申請をすれば夏休み中も学校に滞在することができる。


「そうなんですね。私はつい先日両親が出張から戻ってきましたので、休暇中は家族で過ごす予定なんです。家は学園からそんなに離れていませんから、よろしければ夏休み中も一緒に遊びましょうね。」


この日は、珍しく宿題も出されずに平和な一日を終えて、私は一人宿舎へと帰っていった。ドアを開けると、案の定王子が一人ソファを占領してくつろいでいる。私は彼を前にして心臓が跳ね上がるのをなんとか隠して平然を装っていた。

 先日のドッジボール死闘の件があってからか、私は王子に対して一種の拒絶反応みたいなのに悩まされている。彼を前にすると以前のような威勢を張れなくなってしまって、動機がして心身が穏やかではない。


「おかえり、カレンちゃん。How was your day?」


「可もなく不可もなく。」といつもなら答えるところだけど、今日はとっておきがあったことを忘れていた。


「今日はとっても良い日だったよ。

学校でロリィタを好きっていう女の子とあったの。私のお洋服のことも知ってくれていて、早速お友達になっちゃったんだ。今度一緒に遊ぶ約束もしたし。」

いいでしょう。と、私は少し得意げに言った。


「へえ。そうなんだ。」私の期待に反して、彼はそっけない。


「その子が本当に良い子だといいね。でも、気をつけなよ。何か悪意があって、君に近づこうとする子だっているかもしれないんだからさ。」

まるで親が子を諭すように、彼は言った。


「私の友達を悪く言うのはやめて。」私は反論した。


「みよりちゃんはそんなんじゃない。ロリィタを好きな人に、悪い人なんていないんだから。」


「ふーん」と彼は不審そうに鼻を鳴らすから、私はむっとして答えた。


「そもそも、私が周りからとやかく言われるようになったのは、あなたにも一因があるんですからね。

私はただ、好きなロリィタを着るためにこの学校に入ったのに、初日からあなたに絡まれたせいで、変なやっかみを受けていい迷惑よ。」私はこれみよがしに嘆いた。


「心外だな。俺はこれでも、他の生徒の妬みや批判から、かれんちゃんを守ろうとしているだけなのに。」


「もういいです。とにかく、私の大切な友達のことを悪く言うのはやめて。」

この話はもう終わり。というように私は両手を上げた。


「わかったよ。でも俺は忠告したからね。」

渋々彼は引き下がったけれど、なんだか燃え尽きない。




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