第22話 柊さんと「トモダチ」

 今日も、私、柊 紬は陸上部の朝練。今日は夕方雨が降りそうだな、とか思いつつ練習に励む。練習はいつもあっという間だ。運動が好きなのもあるけれど、それ以上に普段から真剣に取り組んで疲れるし、その間時計なんて見ないから。


 朝練が終わって、急いで着替えて教室へ。いつもとメンバーは変わらない教室。だけど、最近友達の様子が今までと違うな、って思う。私が勝手に一番の親友だと思っている知花っちと、学年一美少女って言われてたりする小春さん。

 話してる様子はいつもと変わらないようで、今までとちょっとだけ見てる目線とか、そういうのが違う気がして。私が感じたことはないけど、今まで何年も友達の話を聞いたりしていたらわかる気がする。これは、恋人がいる目だ。しかも、目線から見る限り同性の。普段はどっちかというと勘がいいほうだと思うけど、こういう時は自分のその能力を恨む。

 だって親友って、同性では一番の仲の良さを示す関係な気がして。きっと、ただ自分が一番信頼されているのが嬉しいだけでただの嫉妬だ。

 そんなことを考えたら、当然だけど日常会話もあまり頭に入らない。普段もしっかり内容覚えてたりするわけじゃないけど。そんな状況なので、当然心配されちゃう。

「珍しいね、普段は一番盛り上がってるタイプなのに」

「あははー、もしかしたら朝練でお腹空いたからかな~」

 なんて、笑ってごまかしちゃう。ありがちな処世術。こんな悩みを打ち明けるのも、こんな悩み自体も、私のわがままだから。


 朝思ったとおり,帰るころになったら雨が降ってきて。結局部活動は今日できないので、帰ることにした。そんなわけで玄関に行ったら、悩みの種の日向さんで。見た感じ、傘を忘れたみたいだけど。

「だれか待ってるの?」

「いや、別に。たまたま仲のいい人が大体用事があって先帰っちゃっただけだよ?」

「で、傘を忘れて悩んでたわけ」

「じゃ、入る?」

 助かったよー、なんて言って私の傘に入ってきて。一体、私のことをどんな関係だと思っているんだろう。不用心で、ちょっとドキってしてしまう。


「やっぱり、小春さんと一緒に帰りたかった?」

 くだらないことを聞いてしまう。

「どうしたの?急に」

 当然、向こうからしたらそんな反応だ。自分で勝手に全部わかっている気になって、ちょっと強気に聞いてみてしまう。

「実は、小春さんと付き合ってたりとか。するんでしょ?」

「...」

 大体図星だとは思うけど。勝手にむしゃくしゃしてさらに言い方がきつくなってしまう。

「今の私って、あなたから見たらどんな関係なの?」

 怒りと裏腹に出てくる、弱々しい声。きっと、自分でも自信がないんだ。もしくは、友達だってわかってて、それ以上を望んでしまうような。

「もちろん、大切な友達、親友?そんな関係だと思うけど」

 その言葉が聞けただけで、急に満足な気がしてきた。自分で言うのも変だけど、変な奴だ。特別な言葉を求めておいて、そうであるとわかると、急に安心して、何事もなかったみたいに。

「それにしても、結構みんなにばれてるのかぁ...。気を付けないと。」

 でも、やっぱり小春さんを考える目は私を見る目とは違くて。そこに、やっぱり嫉妬を感じてしまう。

 でも、さっきみたいなつらさがあるわけでもなくて。あくまで友達ってだけで、それが壊れるのがきっと怖かっただけだ。私もちゃんと見てくれて。その幸せが普通に気持ちよかった。


 そのあとは結局知花の家までいろいろ話しながら歩いて。ごめんね、方向違うのに、なんて言ってた知花っちに冗談交じりで返して、あらためて帰路へ。一人になると急に寂しくって、小雨になったのを確認して家まで傘を閉じて走り出した。

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