第10話 修学旅行と恋1
そして待ちに待った修学旅行当日。朝早くに普段と違うところに集まるから、すでになかなかに疲れた気がする。朝早いのは苦手なので、尚更だ。みんな制服だから普段と同じはずなのに、外の景色だと少し違って見える。休みの日は私服だし。遅刻したら恥ずかしいから少し早めに来たら、読書組の二人が先に来てた。今はグループに分かれる前だし、今のうちに話しておこっと。
「おはよ~、まだちょっとねむいや。」
「私もだよ~。普段から早寝するようにはしてるのに。」
「二人ともおねむだね。杏奈のそういう姿はちょっと珍しいかも。」
「あはは、ちょっと恥ずかしいよ~!」
とりあえず二人とも元気そうで何よりって感じだ。確かに眠そうな海野さんはちょっと珍しい気がする。
「そういえば日向さん、今日髪型いつもと違うね」
そう、ちょっと前のあの気持ちはさらに大きくなって、自分の心を押しつぶして...?上書きして?わからないけど、大きくなっている。その結果、普段は短めで特に結んだりはしてない髪だけど、ハーフアップみたいにして来ちゃった。
「でも校則的にはアウトだよ、それ」
えっ。つまり無駄な努力なわけだ。そんな~。
こっそりしてようと思ったけど、人が少ない時間だからかすぐばれて普段通りに。あーあ。見せたかったな。なんて思ってたら海野さん、いつの間に写真撮ってたらしい。それはそれで恥ずかしいからやめてほしい。
そして小春さんが来て、柊さんと星野さん、会野さんは時間ギリギリめに来た。
3人とも寝坊らしい。なんとなくわかる気がする。もちろんみんなから
『こんな日に遅刻したらシャレにならないよ~』なんて茶化されてたけど。
そして新幹線の切符をもらって、もう気分はうっきうき。子犬だったら尻尾をすごい振っているだろう。あまりにうれしそうに見えたのか、みんな困惑している。
「知花っち、今日元気すぎて怖いよ...?」
なんて言われる始末だった。いわれてすぐに恥ずかしくなってやめたけど、それはそれで向こうから見たらいつもと変で面白かったらしい。穴があったら入りたいよ~。
新幹線って初めて乗ったけど、とても速い。2時間か3時間かそこいらであっという間に京都にまで着いてしまった。
そしたらさらに電車で奈良まで行って、クラス全体で鹿のいる公園へ。鹿って思ったより大きい。鹿せんべいをあげれるらしいんだけど、私はとてもじゃないけど怖くてできなかった。みんなも同じ感じなのか、あげてる人は半分くらいだったかも。あの子が鹿せんべいあげてる姿もかわいかった。
そのまま興福寺とか春日大社も見て、ランチタイム。グループみんなで温そばを食べてる。疲れた体には優しくていいな。
予想通りというか、会野さんはすでに音を上げてたけど。
午後もいくつかの場所をずらずら周って、あっという間に一日目の旅館に。
近くに川のある、由緒正しそうな旅館だ。どうやら外で蛍が見れるらしいと先生が言っていたので、せっかくだしみんなで見に行ってみる。
思ったより暗いけど、言い方を変えれば風情のある、いい感じの川だ。川といっても、今実際にいるのは川辺というより川のそばにあるちょっと高台の柵の外だけど。蛍っぽい黄色い光がちらちらと見えた。はっきりわかるわけじゃなかったのはちょっと残念だけど、それでも満足だった。友達とも久しぶりに話せたし。
さて部屋に戻るかって思った時、足元が暗いからか石に足を取られる。急にバランスが悪くなって転びそう、そう思って目をつむったら。そばにいた小春さんが転ばないように支えてくれた。ふっと目が合う、でも恥ずかしくてちょっと目をそらす。でも感謝は忘れないように。
「あ、ありがと...」
あまりちゃんと声にならなかったけど、
「どういたしまして。」
ちゃんと返事が来たから届いているようでそれはよかった。
お風呂は渋い顔して入って、そのあと食事も済ませて。あっという間に布団の中だ。朝早かったからか疲れたからか、みんなすでに寝静まっているみたい。でも、私はまだ眠れない。さっきの転んで、支えてくれて、目が合って。そのシーンがずっと頭の中をループしている。この恥ずかしさはなんだろう。この暑さはなんだろう。胸がドキドキしてるのはとても分かった。
私は小春さんが好きだって、今気が付いた。
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