第33話 一人、手を重ねて

 今までも何度もしてきたような、今まで一度もしたことがないような、そんな変な気持ちで二人で静かに歩く帰り道。私から誘っておいてだけど、実際二人きりになるとなかなかしゃべりだせない。思わず、前と同じ手段に出てしまう。

 ふと私のほうを向いた小春さんを抱きしめて、キスをする。結局前と何も変わってないし、下手したら向こうはもうこんな関係を望んでないかもしれないけど、口下手だからこんなことしかできなくて。それを契機に、思わずしゃべりだす。

「私、今でも、いやずっと夕依ちゃんが好き。だからこそ心配。ちゃんと、話してほしい。」

 彼女をじっくり見つめる。少し恥ずかしいけど。

「...うん。」

 そして、前と同じカフェで、今度は逆の立場で話を聞くことになった。本当は学校から寄り道してカフェに行くのはまずいんだけど、そんなこと気にしてる場合じゃないし。

 結局、思ってた悩みとは全然違って、それに対してどう返していいのか困ったんだけど。


 その悩みは、前世の記憶の話。まるで記憶と感覚。生まれた時からずっとこの調子な私とは全然状況が違う分、きっと感じることも全然違ったんだろうな。あとから自分が消えていくなんて、どう考えても怖い。

 こういうこと、私があった時はどうしたんだっけ。なんて考えてみたけど、ずっと前だし、やっぱり状況が全然違うからヒントになりそうなことは思いつかない。

「それは時間が解決するしかないような...」

 考えたことを言葉に出しつつ、とはいえ相手のことを考えつつ、極力逆撫でとかはしないように。

「うん、それはわかってるんだけど...。自分が消えたらって思うと、やっぱり怖い。」

 ちょっと震えているように見えた手を握ってあげて。

「確かに自分が消えたらって思うのはきっと怖いと思う。でも、そういうのを経験してできるのも自分じゃないかな。」

 うまく言葉を紡げないけど。この言葉すらもわがままかもしれないけど。そんなことを考えるより先に、言葉を発する。止まったら、どうなるかわからないのが怖かったのかもしれない。

「もしそんな自分が嫌なら、その分私が楽しい思い出で上書きしてあげる!」

 どんどん言葉が強くなって、どんどん言葉が拙くなって、それでも言い続けて。

「だから、もっと私に、つらいことも、うれしいことも、話して、相談して、一緒にいてよ。」

「私たち、そういう関係じゃ、ない、の?」

 ちょっと涙目になりながら、そう問いかける。そして大団円になるって、そう疑わないでいたけど。


「でも、やっぱり、あなたに心配はかけたくないし、弱いところも、見せられない。」

「だから、私と別れてください。」

「いやだ。だったら、なおさら、別れたくないよ。」

 そうは言ったって、このままじゃ平行線なのはわかってる。

 これからを変えてしまいそうな今日は、まだまだ続く。

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