第34話 二人、手をつないで
「でも、やっぱり、あなたに心配はかけたくないし、弱いところも、見せられない。」
「だから、私と別れてください。」
「いやだ。だったら、なおさら、別れたくないよ。」
そんな押し問答が少しあって、会話が止まる。もちろん、向こうが私のことを思ってそういってくれてるのはちゃんとわかってるんだけど、今の私には別れるなんて想像もできないくらい好きでいっぱいで。こういうの依存っていうんだろうけど。
そういえば、弱さを見せられないって言ってたな、って思いだして、アプローチを変えてみる。
「じゃあ、私の話、聞いてもらってもいいかな?」
「どうしたの、急に」
「どうせなら私の悩みも聞いてもらおうかなって」
「どうせならってなによ、どうせならって」
ちょっとだけ普通に戻ったかも。それに安心感を覚えて、語りだす。
私、前世の記憶っぽいのがあるって言ったでしょ?昔。でも、それってっぽいじゃなくて、本当にあったことなんだ。といっても実際に証明する方法が難しいけど。自分が前世でどんな性格でどんな体つきをしていて、どんな生活を送っていて。どんな趣味をしていて、どんな死に方をして。そして生まれ変わって今の私になって。
転生して性別も暮らしも全然違うから、やっぱり苦労して。そのせいでプールとかも入れないし、みんなと趣味が違ったりして。女の子の小さい社会だから、それで一人になりがちで。でも小春さんとか、みんなと出会って、仲良くなって。
そのまま小春さんの好きなところとかまで含めて、ゆっくり、じっくり語りつくして気づいたら2時間くらい経っていて。思わず我に返って、小春さんを見る。
そしたら、ちょっと笑っていて。あれ、私変なこと言っちゃった!?というか、ずっと好きなところとか語ってたじゃん!?今思い出してみると恥ずかしい。穴があったらってやつ。
「いや、こんなに熱心に話している知花、久しぶりに見たからさ」
「といっても、悩み相談って言ったはずなのに、一方的にしゃべってるだけだったけどね」
「ふふっ、でもそういう知花、好きだよ、あっ」
そのまま二人で静かに笑って。
「確かに悩みってつらいときもあるし、話せないときもいっぱいあるけどさ、いつか必ず軽くなったり、人に話して軽くなったり、そういうときがあるんじゃないかなって」
「だから何かあっても無理して聞かないし、話したくなった時に話してくれればいいよ。話すのが難しかったら文章とかでもいいからさ。」
「あ、でも一人で抱え込みすぎて変な行動しちゃうのはなし!そうなりそうなら相談すること!」
静かに頷いた小春さんを見て、一安心。カフェから出て、二人で歩く。
「ねぇ、さっきの話、まだ取り消しできる?」
「別れてってこと?もとから本気にしてないよ」
「うーん、それはそれでちょっと悲しいんだけど」
いつ、どっちからともなく手をつないで一緒に帰る帰り道。他愛もない話でまた笑って、あっという間にいつも別れるところまで。
「じゃ、また明日」
何気ない挨拶が戻って、もうすぐ3月10日、あっという間に進級、そんな春の一日が終わった。
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