第32話 伝えたくて
彼女が変わってしまった。いや、その前兆は前からあって。それで沢山心配もして、でも本人は気丈にふるまっていて。いや、そういう性格は私も同じだけど。いったいどうしたら正解だったんだろう。
もっと強気に踏み込んだら?きっと、そしたら逆に頑固になっちゃう気がする。
誰かに相談したら?何に悩んでいるかもわからないのに、私もわからないのに、誰に悩みの答えが出せるのだろう。
言ってくれるまで待つ?いつまで?その間に戻れない結果が出てしまったら?
大好きな人にあげるはずだった、今にも湿気てしまいそうなクッキーをしょうがなく口に運びながら、ずっと悩んでいるまま。
とはいえしばらく一人にさせて、っていう言葉を破るわけにもいかず...。
しばらく小春さんと全く話さない日が続く。そしたら当然みんなもいろいろ心配し始めるわけで。
「どうしたんだろうね、小春さん。」
「うーん、それは気になるんだけどねぇ。話してくれないから困るよ」
「とはいえ無理に聞くのもだめだもんねぇ」
そんな感じで、私と同じようにあまり進展とかがあるわけじゃないみたいで。
今まで仲良くしてた相手が一人いないだけで、世界が灰色になったようで。今までの日常だって、いつも通りではあっても特別だったわけで、ましてやこの関係はより一層で。
そして時間は一日、一日と過ぎていく。こういうときでも時間は早く進むみたいで、悩んでいたら夜寝る時間になっていたり、お風呂にいつもより長く入っていて怒られたり、時には動画ストリーミングサイトの次の動画を選ぶ画面でずっと止まっていたり。
しばらく経ってスクリーンが真っ黒になって、余計な情報が消える。とはいえ、そうすると考えることが増えてしまったみたいな気分になっていやなので、またつけて。動画は結局選ばないのに。
そしてまた、夜が更けていく。何も変わらないし、進まなかったのは言うまでもない。
そうして定期テストが終わって、結果が返却されて、3月になって。一つ上の学年は卒業のムードに進んでいって、それでもこの関係が変わらなくて。
もしかして、このままこんな感じで自然消滅しちゃう関係なんだろうか。いや、そんなことはない(と思ってる)し、させたくない。
確かにもともと男としての前世があって、それがあってかなくてもか今の同性を好きになって、向こうもそれを認めて、好きって言ってくれて。ましてや、そんな関係でした、あのキスは。
そんな過去のことを思い出しつつ、このまま止まっててもいけないな、って決心が固まった。別に誰かに背中を押されたわけでもなく、その関係が壊れて困る相手ももしかしたらこの世にいないかもしれないけど。つまりほとんどエゴではあって、でも大切で大好きな子の気持ちを、改めて伝えたくて。
「今日、一緒に帰らない?」
ちゃんと、話したくて。
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