第31話 ねじれの位置、バレンタイン

 最近、よくわからない夢をずっと見ている。自分が誰か知らない人と知らないアプリで通話してたり、今と全く違う部屋で本を読んでいたり。

 そして最後には必ずトラックで轢かれて、死んでしまうちょっと手前で目が覚める。いや、無理やり起きているのかも。

 こんな夢を見るようになったのは最近、といっても10月に入ってからくらいだから、たぶん4か月くらい前。毎回主人公は一緒で、まるで自分がそれを体験したような、いわゆる前世の記憶?みたいな感じで。

 といっても前世の記憶だとは当然思えないし、そういう話を日向さんがしていたのは聞いたけど、他人事だと思ってたのであまり気にしてなかった。

 それが変わったのはいつからだったか、ちょっとずつその夢の景色が現実と混ざっていくような感覚がした。少しずつ混ざっていく男性っぽい口調、動き。だんだんと変わっていく本の好み、今まで見えなかったものが見えていく気がして、恐怖を感じる。とはいえ、だれに相談するにもいかなくて。ましてや、日向さんは大切だから。

 とはいえ、隠しきれてはいないだろう。実際、何回か心配されちゃったし。とはいえ、隠さなきゃ。誰にも、心配をかけさせないように。


 それからは何かに取り憑かれたように、いや本当に憑りつかれていそうだけど、勉強により熱を入れるようになって、さらにこの問題の解決法とか、現実逃避のための小説とか、ネットもずっと見てしまうようになって、どんどんと今までの生活習慣とかが崩れていく。

 そういえばもうすぐバレンタインだな、ふとカレンダーが目に入ってそう思うけど、いまいち楽しめない。こんな状態になってしまって、気づいたら好きな相手への気持ちも、よくわからなくなっちゃって。うーん、もやもやする。


 崩れた生活習慣に悩み事も合わさって、全く眠れない2月14日。目が覚めたころには遅刻すれすれの時間で、普段より簡単に身支度を終わらせて学校を出る。そこに楽しみな感情とかは全くなくて。

 学校に着いて、着席するころにはやっぱり遅刻直前で、心配される。といっても、今はそんな声も全然頭に入らない。気を抜いたら違う、おかしい他人が出てしまうような不安があって。それに、話したら弱さも出してしまう気がする。

 そして放課後、今日は最低限だけ人と話して、急いで帰路に着く。ちょっと寂しさとかがある気がするけど、これは自分で決めた、誰かを守るための。自分を守るための、手段だ。そんなことを考えたら、やっぱり笑顔も泣き顔もできない。表情が自分の制御下を離れたような。

 そんなとき、何度も何度も聞いた声をかけられて、反射的に振り向いて。やっぱり、日向さんだ。

「何かあった?様子変だよ?私、何かしちゃったかな?」

 よく考えたら、彼女も同じような経験をして、そのはずなのに私みたいに悩んでいない。つらい思いをしていない。なんで私だけ。そんな悪い気持ちがどんどん心を埋め尽くして、

「しばらく、一人にさせてくれないかな。」

 これ以上見ていたらこれ以上の悪い気持ちが出てしまう気がして、無理して振り返ってそのまま走り去る。日向さんがどんな表情をしているのかすら見ないままで。

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