第3話 授業と一歩ずつ

 入学式から数日経って、授業が始まった。教科書が配られて、思わず渋い顔をする。

 だって三角関数とか苦手だし(だったし)、物理とか漢文とかもわからないし。

 前世の記憶があって学生生活、ってなると勉強全部わかってて満点取って~、みたいなのをみんな想像するかもしれないけど、案外それで何とかなるのは中学生まで。少なくとも私の場合は。


「授業がつらい。帰る。」

「ちょちょちょ~!?」

 柊さんのノリのいいツッコミが入る。

 お昼休み。この時間が一番学校生活っぽいし楽しい。でもやっぱりその前の4時間はつらい。めんどくさい。さらにこの後2時間あると考えるともっとつらい。やっぱり帰りたい。でもお弁当はおいしい。

「そういえば部活ってもう決めたの?日向さん。」

 そう聞いてきたのは、国語部の海野さん。国語部は本を読んだり書いたり、そんな感じの部活らしい。

「特に入る予定はないかなぁ。部活動でみんなとわいわいするよりも、一人で静かにあれこれしてるほうが性に合ってるし。」

「そっか~、ちょっと残念」

「陸上部はいいよ~!」

「紬ちゃんは運動神経いいからいいけどさぁ...」

 みんな会話に入って、わいわいしている。そしてそれを少し遠くから見てる私。ただ、国語部はちょっと楽しそうかも。あとで少し部活紹介の冊子見てみようかな。運動部は...うん。


 6時限目も終わって。

「疲れた~!やっと帰れる~!」

「さっきからずっと帰ることばかりだね、知花っち」

 いつの間にあだ名で呼ばれてるし。でも確かにいつもは帰りたい~ってばっかり思ってたかも。

「そうだね~。でもちょっと学校も楽しくなったかも。」

「おっ!!!それならぜひ一緒に...」

「紬ちゃん、ストップ」

 柊さんはあいかわらずみたいだ。


 部活動はまだスタートしないので、また大体同じ面子で一緒に帰ることに。

 海野さんと高月さんは図書室で本を読んで過ごすらしい。まさに本の虫、って感じだ。


「私も今度またいろいろ本読もうかなぁ」

「お、珍しいね急に」

「まぁね。」

 あまり会話は続かないけど、無難に今日も日常会話をする。やっぱりまだ独特の距離感に慣れてはいない。

「それにしても何読むのさ」

「うーん...本当はライトノベ...じゃなくて今流行りの切ない系とか?」

「なんか意外かも」

「あははー...」

 ちょっと図星っぽいところに話が飛んできて、返事が雑になる。なんでこういうところばかり勘がいいんだろうか。むむむ。

「そういう柊さんは?」

 自分に返ってくるとは思わなかったのか、ちょっと茶化すような言葉を入れつつ、

「下の名前でいいよ~、うーん...」

 特に本は読まなさそうだ。そういうタイプでもなさそうだし。

 そして止まってしまった柊さんを前にちょっと笑って、また帰り道は静かになった。静かになるとやっぱりちょっとばかり寂しい。何か話したほうがいいんだろうか。それとも。ここであたふたするのは結局前から変わってない。

 でも、せめて。

「じゃ、また明日。

「じゃ、知花」

 一歩ずつでも、変わりたいな。

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