第6話 リレーとリーダー
今日から本格的に体育祭の準備が始まるらしい。運動嫌いなので勘弁してほしい気分だが、避けられない運命らしい。ちえっ。
人数構成がおかしいのでクラスの6-7割くらいは100m走。残りは400mとか長距離とか障害物競走とか。障害物競走ならなんとかって思ったけど、その前に体育でタイム測った結果から100m走になりました。とほほ。
それ以外にも全員参加の競技があったり、応援団があったりする。
今は体育の授業中、全体リレーの練習をやっている。私はまだなので座っているけど。そしてみんなの走りを見ていると、やっぱり面白い。あまり自分が見られるのはいやなんだけど。そういうのっていっぱいあるよね。
そんなこと言ってたら自分の番だ。自分の前に走っていた男子からバトンを受け取る。そしてそのまま勢いを殺さないように走り始める。走るって楽しいな。ちょっとそう思った。
次の人にバトンを渡すころにはかなり疲れてたけど。もうちょっと運動しなきゃな。
学年種目はムカデ競争だ。みんなの足首を紐でつないで、みんなで合わせて歩く二人三脚みたいな競技だ。つまり、運動神経の差が明確に出る。
「運動神経悪いから、迷惑かけないかなぁ。」
「転んだらどうしよう...」
ネガティブな言葉が、周りから散見される。あまり一致団結、って感じのムードじゃなさそうだ。自分も、思わずそっちに引っ張られそうになる。
「だいじょーぶ!」
柊さんが明るく、響く声で言う。一気にクラスメイトみんなの目線が集まる。
いったいどんな作戦が...?
「といっても特に作戦も根拠もないんだけど!」
自分で言いながら笑ってるじゃん。そんなことを思って、自分も笑ってしまう。つられて周りも笑う。
あっという間にクラスの空気が柔らかくなる。柊さんの独特の空気感に感心したし、それと同時に背中を押された気がした。
◇
ムカデ競争の準備が始まったあたりから、クラスのムードが明確に悪いほうに変わった。どうやら、運動が苦手な人が不安になっているみたいだ。
別に体育祭のリーダーでもないけれど、私は運動が好き。体を動かすのが好き。それと同じくらい、みんなで笑っているのが好き。だからこそ、体育祭はみんなで笑って終わりたい。そしたら、震えてた体も何とかなる気がした。
そのまま気持ちを前に押し出すように
「だいじょーぶ!」
自分が不安なのを、隠せ。みんなの不安を、吹き飛ばせ。そんな気持ちで、全力で叫んだ。
そしたら、みんながこっちを見てくれた。大丈夫、みんな私を信じてくれてる。そんな気がして。そしたら今よりちょっと笑顔になる。みんなとなら大丈夫だと思えるから。
「といっても特に作戦も根拠もないんだけど!」
ちょっと弱さが出た。少し恥ずかしくて笑っちゃう。けど、みんなも笑ってくれた。
体育祭は、もうすぐだ。
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