第16話 夏祭りとキス ~知花視点~
ピンポーン。インターホンが鳴って、母親が出る。小春さんが来たらしい。でも、私はあまり外に出る気にならないままだ。
話はちょっと前の一件の後に遡って。大好きな人に弱みを打ち明けたこと、でも全部は言わず隠しちゃったこと、好きな気持ちも隠しちゃったこと、あんな姿を見せたこと、心配をかけたこと。
そのすべてが、棘のように私の心に刺さって、好きな気持ちを攻撃するような、そんな感じ。胸がチクチクしてる感じ。
そんなわけで、顔を見せられる気がしなかった。でも階段を上る音が聞こえて、ノックの音。でも動けなくて。少ししてドアが開かれて。
今一番顔を合わせたくなかった彼女と目が合ってしまった。
うわああああああああ!待って!今は!気持ちが!私の頭は暴走機関車だ。
「なんだ、準備はちゃんとできてるんじゃない」
そう。結局顔を合わせる気とかはないはずだったんだけど、やっぱり自分で約束したものは忘れていないもので。準備をして、その最中にまた悩んで。準備が終わって、そしてまた悩んで。そんなこんなで、今に至っている。
だけど彼女は、目を無理に合わせず、手を引っ張って、外に連れ出した。私がバッグを忘れそうになったから急いで持って。親にこんな姿を見られるのは、いつもと違う恥ずかしさがあったけど。
そして近くの神社まで、一緒に走って。人気があまりない社殿のほうへ。どうしてそんなところに?って思ってたら、小春さんは5円玉を投げて、何かをお祈りしていた。私だけしないのも申し訳ないから私も。小春さんは何をお願いしたんだろう。
近くのベンチに座る。私も小春さんも、息がおもいっきり切れている。そりゃそうだ。あそこから神社まで歩いても15分くらいかかるのに。
そんなわけで息切れしてくたくたのまま数分。疲れてはいたけど、それでも小春さんのことが気になって、横目で見てる。だってきれいだし、かわいいし、何より大好きだから。また胸がきゅっとして。
ちょっと勇気を出して。
「あのさ、小春さ...夕依ちゃん!」
心臓はさっきまでもどくどくしてたのに。同じだけど全然違う。顔も赤くなる。
向こうは当然驚きと?の混じった顔だ。
「ちょっとだけ、目を瞑ってくれない?」
そしたらいいよ、なんて優しい声で言って瞑ってくれる。目を瞑った姿ももとてもかわいい。そんな姿も眼に焼き付けて。
私はいつだっていきなりだ。まだ相手に気持ちすらちゃんと伝えられなくて。伝えられるかすらわからなくて。でも大事な友達が背中を押してくれて。大好きな人が目の前にいて。そして私は。
大好きな人の頬に、そっとキスをした。
いきなりすぎて硬直する彼女、心臓の鼓動が抑えきれずにフリーズする私。
あっそうだ、ちゃんと言わなきゃ。
ふと我に戻って、ちゃんと心を落ち着けて。
「夕依ちゃん、好きです!」
言ってしまった。重すぎるほどの好きな気持ちも。今までの過去も、全部乗せて。
向こうは何も言わない。当然だ。急にキスする人なんて、友達でもグレーゾーン、そうじゃなかったらただのやばいやつだ。あ、終わった。私の恋。私の人生。
なんて思ったけど。
当の本人は心からの笑顔で
「私も。」
なんて言っていた。でも、何かが違う気がする。きっと、向こうからすればただの『友達』だ。自分が悩んでいたことも、答えは一番つまらないほうへ。物語のような展開は起こらない。そうわかっていたのに。こんな時に、涙は全く出ない。そしてじゃあ行こう、なんて言って立とうとしたとき。
向こうからも頬にキスをされて。
思わず後ずさる。先に自分がやったことなのに。さらに心臓がバクバクする。どうしてくれるんだ、って感じ。でも、明らかにうれしくて、逆に涙が流れる。そんな私をなでてくれた手は、やっぱり綺麗で、天国のようだった。
でも、返事はいつか。って言われた。そりゃそうだ。でも、今はこれでも、とっても幸せ。月並みだけど、そう思う。
少しして、柊さんたちがやってくる。なんでここだと気づいたんだろう?なんて思ったけど。そういえば夏祭りなのに全然屋台とか行ってない!それに気づいて、駆け出す私。みんなも後から走ってくる。
ここからが夏祭りの本番だ。
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