第15話 買い物と過去

 学校とは反対方向に数十分、本屋や服屋のある大きなショッピングモール?デパート?に来てみた。今まではあまり行かなかったようなお店で、そもそも雰囲気に押される。最近は読書も楽しいから、とりあえず本屋に真っ先に向かってみる。


 あまり大きな本屋ではないが、漫画とかも置いてあって若者を呼び込もうという雰囲気のある現代的な本屋だ。といってもお小遣いはあまりないので、特に本を買うことはない。でも立ち読みもマナー的によくないだろうから、結局ウィンドウショッピングだ。前に図書館で読んだ本のシリーズ、今流行りのライトノベル、これはが好きだった...ふと思い出してしまった。

 やっぱり"オタケン"は自分の生活に深くなじんでいて、でもそれはすでになくなってしまって。

 それに知っている人が亡くなった事実は、なぜか十何年経っても消えないのだ。気持ちが落ち込み、涙がポツリと流れる。気のせいか前世より涙もろい気がする。売り物が濡れないようにしなきゃ。

 そんなことを無意識にたくさん考えていたら。トントン、と肩を軽く叩かれて、意識が現実に戻る。

「あ、小春さん...」

 挨拶をしたつもりだが、気持ちが前の状態に引きずられる。

「とりあえず、カフェとかで話そっか。」

 落ち着いた声に導かれるように、小さなカフェに二人で入った。


 好きな人に心配をかけた。それがあまりにも大きすぎて、でも心配してくれるやさしさに甘えちゃって。ちょっとずつ気持ちを整理して、ゆっくり口を開いて、話し始める。

 転生とかを言うのは非現実的すぎるし、向こうが知らない人の話をしすぎるのもどうかと思って、ゆっくり、言葉に詰まりながら。

 相手をちらっと見て、下を見て。テーブルの下で手をいじって、少しだけ上を向いて、また下を見て、また相手をちらっと見て、その繰り返し。

 でも、小春さんはずっと静かに聞いてくれていた。

 話が終わって、無限みたいな時が過ぎる。そして、小春さんは

「つらかったね。」

 と、静かに一言、やさしく言ってくれた。さすがにカフェで向き合って座ってるから抱きしめたりはしなかったけど。いやされても恥ずかしさとかでむしろ悪い方向に運びそうだ。


 結局家まで送ってもらってしまった。同級生なのに、まるで部活の先輩みたいだ。話して楽になったかはわからないけど、少しだけ気持ちは変わったような、そんな気がした。本当に、私が幸せになっていいのかな。見当違いでも、そんなことを思った今日の夜だった。


 ◇


 今日は服を見に来たつもりだったけど、本屋の通路側でつらそうな顔をしている日向さんを見かけた。体調が悪いわけではなさそうだけど...

 声をかけるのも不安になるような雰囲気をまとっていたので、やさしくトントン、と肩を叩く。やはりというか、涙目で私にあいさつをする。平然を装っていそうで、全然装えていないことからも余裕のなさが見える。

 だからこそ、とりあえず話を聞くことにした。

 話の内容は、主にこんな感じだった。

 1.前世の記憶っぽいものがあって、それで心が不安定な事。

 2.昔の友達が、死んでしまったことを知ったこと。

 正直、どれくらい彼女が悩んだのか想像もつかない。前からいろいろ悩んでいそうなのはわかっていたつもりだったけれど。

 結局私はつらかったね、としか言えなかった。頭をなでるのも、抱きしめるのも違う気がしたし。

 そんな話をしたら、目の前にいる人すらいつか消える存在だと思ってしまって、できる限り長く一緒にいたい、とか思ってしまった。帰り道、喋ることはなかったけど、家の大体の方向は知っていたのでそっちに向かって一緒に歩く。そのまま家までついたらしいので、また静かに、でも私も何か強い気持ちを抱いたまま別れた。


 私を信頼してくれたうれしさよりもとても大きい、複雑な気持ちを抱えたまま。

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