第4話 博多大仏について《管理票2159-Vo:H81200XX-TR》
【ボイスレコードタグ】
取材対象者
取材者 当事務所アルバイト
蒐集地 福岡県福岡市博多区大博町X-XX-XX
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雫石「――はい、録音はじめました」
久木「このマイクに喋ればいいの?」
雫石「はい。音声拾うので、いつものお話し会のように話されてOKです」
久木「そうか。うんなら、そうするかね。
えーと、どこまで話したかね。
ああ、そうそう。博多大仏についての話やったね。
それにしてもようしっとるねえ。博多大仏なんて。
東長寺の福岡大仏なら知っとてもおかしくなかろうけど。
ありゃ、おれが赤ちゃんのときに、のうなったもんよ?
称名寺さんに行ったとね。ちがう? 小泉八雲の小説?
ああー、はいはい。『博多にて』を読んで。
若いのに、ヨー勉強ばしとるねえ。すばらしかあ。
それならおれも話すことは殆どなかよ。
そ、称名寺さんは昔、おおきな青銅の大仏ば建てとったっちゃん。
でもくさ、戦争があって、兵士の弾つくらないかんやろが。
やけん、ぜーんぶ溶かしたとよ。
高さが5.5メートルあったっていうけんね。
二階建ての家のアンテナぐらいあるんやないとね。
よかったら称名寺にいかねん。台座はのこっとるけん。
あれだけみても壮観たい。よかぞー。うん。
ああ。それじゃなか。うん。鏡の話ね。
そうよ。博多大仏さんはね、鏡でつくられたそうよ。
おれもばあちゃんにきいたばってん、そげんよく覚えとらんけどさ。
称名寺の境内に、青銅の野瓦のごとく、ばーと一面に。
銅が足らんってことでね。信心深い女衆が鏡をさ、寄進したとよ。
5.5メートルの大仏さんやけん、こりゃ一杯あつまったちゃろ。
本にも買いとったろ。異人さんには異様やったろうねえ。
で、くさ。ここからが笑い話よ。
明治のことはみーんな信心ぶかかったけんね。鏡をぜーんぶやって。
それで博多に生まれて来た子どもがくさ、鏡をしらんくなった。
そりゃあそうよな。みーんな寄進してしまったから。
たぶん当時の女性もひとつやふたつはもっとたと思うばってん。
一応、みんな寄進しましたって態やけんさ。隠しとったい。
で、鏡をしらんこどもがよ、称名寺の境内で見つけるわけさ。
そして皆びっくり仰天して。うちのばあちゃんもそうやったてさ。
で、子どもとはいえ、鏡がどういうものかは分かるとさ。
自分がくっきり映るものがあるって、家に持って帰るとよ。
で、親に折檻される。でも子どもやろ。
まして女の子は欲しいとよ。鏡がさ。
だから、こどもがみーんな持ち帰ってね。
親も称名寺の坊主も頭を抱えたわけたい。
だけど、これはよかとよ。この程度ならね。
ただやっぱり中には察しが悪い子がおる。
『鏡』ってもんがよう分からん子もおるとよ。
自分が映っとると、ぴんとこない子どもが。
で、鏡をみて、ギョッとする。なんか知らんヤツがこっちを見とう。
まるで円い穴から、逆さの世界の住人が、こっちを覗くようなもんたい。
で、「おまえ、だれか」「おまえ、なんしよるとか」って質問する。
もちろん鏡やけん、相手も同じ事いう。
するとな。・・・・・・わかるやろう。
頭がパーになってしまう。
多分くさ。その子どもらも、うっすら『鏡』の性質は知っとたい。
でも察しが悪いけん、自分にむけて質問をなげてしまう。
そうして鏡が自分に問い返して、だんだんと、自分がわからんようになる。
そして頭がおかしくなる。パーになってしまう。
あのころ、頭がパーになったら、大変よ。
精神病院にいれられて、ずーと死ぬまで監禁。あるいは座敷牢たい。
やけん、大人たちが、慌てて、こげん噂ば、流したとよ。
称名寺の鏡は『天竺鏡』。仏さまに寄進したコワい鏡。
もし勝手にもっていったら、あの世につれていかれるぞ。
もし勝手にのぞいたら、魂をもっていかれるぞ。
これやろ。それがお兄ちゃんの知りたかった話は。
そうたい。『天竺鏡』も『河童』と同じよ。
河で遊ぶと危ないけん、『河童』ば信じ込ませた。
鏡をのぞくと危ないけん、『天竺鏡』をつくった。
博多の『天竺鏡』のいわれ。ようわかったか?」
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