第9話 自殺した被疑者の供述調書


【供述調書】

 本籍 不明

 住居 不明

 職業 無職 

 氏名 柳山やなぎやま益男ますお 生年月日不明


 上記の者に対する、福岡市長浜通り魔殺人被疑事件において、2019年7月17日、福岡県中央署第2取調室において、本職は、あらかじめ被疑者に対し、自己の意志に反して供述する必要がない旨を告げて取り調べたところ、任意次のように供述した。


 ・わたしは福岡市中央区大濠公園にビニールでつくったテントを構えてホームレスとして暮らしています。定職には就いておらず、アルミ缶やスチール缶をあつめて資材回収業者に売り払うことで日銭を稼いでいます。


 ・むかし双極性障害をわずらい、抗精神薬を服用していたことがあります。3年ほど病院に通院していたが、効果はなかった。テントの中にあったのは、飲み忘れていたもので、あの日はとくに酷く、それを飲んだとおもう。


 ・その日はずっと頭に幻聴が聞こえていた。女の声で、ずっとヒステリックに喚き立てる声がひびいて、苦しく、イライラしていた。でも、ときおり、先生(地域ボランティア)が往診にきてくれて、歯くそ菓子とか、ジュースとかをもってきてくれるから、そのときはぐっすり寝れた。


 ・刃物は知り合いのホームレスが亡くなったときに盗んだものです。その日、携帯していたのは、頭の中の女が現れて、自分を襲うと思ったから。それに街頭のテレビに、先生が映って、おれに笑いかけたのが、合図だと思った。


 ・殺してしまったのは悪かったと思っている。人違いだった。自分が殺したかったのはいつも、自分に使命を果たせと行ってくる五月蠅い亡霊のほうだった。でも顔はすごく似ており、写真でみたとおりだった。


 ・テントのなかにある曼荼羅は、自分の宝物。Ωの境界を示した大切な図形。すべてはAlphaから始まり、Ωでおわる。じぶんはその中間点にある。使命を果たせたことはとても嬉しいと感じる。


 以下のとおり、録取して読み聞かせたところ、誤りのないことを申し立て署名 印した。


 前 同 日

  福岡県警 中央警察署

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