第8話 会報誌『幽玄』の座談会

 本会報誌は貴賓館の事件より、三年ほど前に発刊されたものである。

 今回の事件に於いて、その背後関係を読み取る一史料として、一部を抜粋した。


 座談会の参加者は三名。作家の綿辺わたべ和之かずゆき、NPO法人『コドモがんば』の代表朝霧もとなが水樹みずき、インタビュアーの土井どい善継よしつぐの三人である。


 以下、座談会の話題は、年末に発売される綿辺の新刊『瞳の中の真実』に移っていく。



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 土井「それでは、今回発売される『瞳の中の真実』についても聴いていきたいとおもいます」


 綿辺「どうぞどうぞ」


 朝霧「それが本題ですからね(笑い)」


 土井「12月23日に発売される『瞳の中の真実』では、デビュー作からつづけられていた平安時代の説話や歴史を扱ったミステリータッチのものから、時代が現代へ、しかも舞台が学校となっていますが、どのような心境の変化があったのでしょうか?」


 綿辺「心境の変化っていうか、ちょっと疲れちゃって。歴史とか、古文書とか追うの(笑い)。もう歳なのかな、眼も霞んで」


 朝霧「いやいや、綿辺が歳なら、わたしなんて大年寄りですよ」


 綿辺「まあ、それに今回は『降霊術』を扱いたくって」


 土井「降霊術ですか?」


 綿辺「作中でも少年少女が【サマーランド】っていう冥界を行き来するんですが、ここがあの世とこの世がつながっている境目みたいな場所なんです。場所っていうより、境界、あるいは門?」


 朝霧「【憂の国に行かんとするものはこの門を潜れ。永劫の呵責に会わんとするものはこの門をくぐれ】」


 綿辺「そうそう。イメージとしてはダンテの『神曲』に近い感じ。でも、どちらかと言えば、最後のベルセブブのいるコキュートスから、逆さ堕ちして、煉獄にいたる、その境目みたいな?」


 朝霧「【迷惑の人と伍せんとするものはこの門をくぐれ。正義は高き主を動かし、神威は、最上智は、最初愛は、われを作る】」


 土井「良くおぼえてますね」


 朝霧「好きなの。とくに地獄篇が」


 綿辺「好きそー。なんか雰囲気でわかる(笑い)」


 朝霧「それってどういう意味ですか(苦笑い)」


 綿辺「いやいや、悪い意味で言ってないよ。ぼくらにとって、ほら、境目というか、境眼さかいめに重きを置いてるわけだし」


 土井「Ωの境界ですね」


 綿辺「そう、破壊と再生をつかさどる冥王星の運行とΩの祝福によってもたらされる境界の視認化。いわばメシアの瞳。時間という多くの次元連続体をむすぶ、AlphaとΩの直線。これを識ることが、アカーシックレコードに接続するための最低条件じゃない?」


 土井「それが作中でも大きなテーマになってますね」


 朝霧「すごい土井さん。ちゃんと軌道修正できてる(笑い)」


 土井「仕事ですから」


 綿辺「でもズバリですよ。子ども達はAlphaによって旅立ち、様々な苦難をへて、ようやくΩを降霊する。彼は無窮の門から最も遠い極地にいるから」


 朝霧「わたしも読みましたけど、この降霊のシーン。かなり真実味があって。やはり、子どもってAlphaに感応しやすいから、様々な不幸が起こる。でもそれは子どもという愚者がなぜ旅路を始めるか、その動機づけとして、しごくはっきり書かれている。わたしも子どもの情操教育には一家言ありますよ。教育に対するリテラシーもある。でもAlphaって結局Ωの片割れだから、最後に至るのは、もっとも遠い場所ではなく、その極点。まるで双子座の運命みたいなの。「死と闘争」のカストルと「永遠の生」のポルックス。かれらはふたつにしてひとつ。いつも片割れをさがして、みつけたとおもえば、すぐに別のモノを探す。永遠の旅人。それがすごい、じんときて」


 綿辺「うわー。めっちゃ読み込んでもらってる。作者冥利に尽きるけど、ちょっと畏れ多い(苦笑い)」


 朝霧「いや、本当に傑作です。終盤のΩが降霊して、霊媒となった少年に取り憑いたのを、その少年が識らずに少女を待つ処なんて、もう、ぼろぼろ泣いちゃって」


 土井「それ、ボクも泣きました」


 朝霧「ですよね!ね!」


 綿辺「まあ、あそこはボクらの気持ちを代弁している感じですよ。Ωの憑依はわかりにくいから。まるで身体の上に、うっすい透明な皮を着ているようなものですから。だから気づかせてあげなきゃいけない。こちら側から、より雄弁に」


 朝霧「わかるー」


 土井「ほんとうにご光臨が待ち遠しいですよね。それで、朝霧さんの活動にもつながるんですが――――」



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 本、史料の無断コピーに貼り付けられたメモ


 なんちゅうか。思った通り過ぎてコワい。

 これは早急にT少年を捕まえないと、大変なことになるぜ? 

 

 


 



 

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