第6話 破棄された供述調書《管理票4012-Re》

 本供述調書は被疑者の供述をとりまとめたものだが、内容が著しく不明瞭かつ不可解で、本人も錯乱にちかい精神状態であったため、署名には至らず破棄されたが、本機関の前身にあたる怪奇班かいきはん班員により、回収、保管されたものである。したがって管理票番はなく【閉塞式保管庫へいそくしきほかんこ】に保全・管理していたものを、本件にあたって、あらためて管理票番を打刻した。

 以下、その供述調書である。


【供述調書】

 本籍 福岡県福岡市早良区昭代1丁目XX-XX

 住居 福岡県福岡市中央区平尾2丁目XX-XX-XXXXマンション

 職業 株式会社EAST勤務 パートタイマー 

 氏名 向島晃司 1982年 6月19日生(23歳)


 上記の者に対する、犬鳴峠婦女暴行および殺人遺棄被疑事件において、2005年8月29日、福岡県警直方署第2取調室において、本職は、あらかじめ被疑者に対し、自己の意志に反して供述する必要がない旨を告げて取り調べたところ、任意次のように供述した。


 ・わたしは大分県中津市で、高校時代の友人のアパートを間借りして暮らしています。定職には就いておらず、日雇いのバイトをこなしています。


 ・事件のことは承知していました。出頭しなかったのは、わたし自身、あの夜のことについて考えがまとまらなかったからで、この二年間、罪の意識は感じていました。


 ・四人で犬鳴峠に行くことは数週間前から決まっていた。失踪した道尾啓介、高沢直両名と事件の一週間前に訪れており、そこで見つけた祭壇を、ふたたび見に行こうという話になった。


 ・事件当日はバイトの勤務終わりに、天神の警固にとめた道夫啓介の車で、犬鳴峠に向かった。犬鳴隧道から数十メートル前で停車したのち、探索と称して下車。声が聞こえて、それからの記憶が判然としない。


 ・被害者に対して暴行した憶えはない。もしかしたら、した可能性もある。用意も済んでいた。そうすべきだと思った。せがきだなに向かった。施し、供養すべきだと思った。


 ・せがきとは、お腹をすかせた人たちに、食を供すること。自分や道夫啓介、高沢直も知っていた。そのつもりはなかったけれど、犬鳴峠についたとき、すべきことが分かった。考えるべきはひとつで、だれが、棚にのせるか。すべて順番で、じぶんがつぎの最初だとおもう。順番は、まもられるべきだとおもう。



 以下のとおり、録取して読み聞かせたところ、誤りのないことを申し立て署名 印した。


 前 同 日

  福岡県警 直方警察署


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