第3話 R小学校のおまじないについて《管理票2156:H81200XX-EX》

 

 中学館発行 『月刊少女漫画せいら 2007年8月号』より

       読者投稿『平成のこわーいおまじない』

       投稿者福岡市在住MM 『地獄鏡』


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 むかし、私が通っていた今はなきR小学校の話。


 そのころ、私たち五年生の女子のあいだで占いがブーム。


 とくに恋愛系。消しゴムに好きな人の名前をかく、好きなひとの髪の毛と自分の髪の毛を結ぶと恋が実るといったもののなかに、『天竺鏡』がありました。


 『天竺鏡』は深夜2時の丑三つ時に、風呂桶に水を張って、手鏡をつけたまま二十四時間、だれにもバレずに放置。すると将来結婚する時の自分の顔が映るというもの。


 ですが、これにはタブーがひとつあります。


 水につけた鏡は必ず鏡面が底をむいていなければ駄目で、もし鏡面が上をむいていたら『地獄鏡』になるというものです。


 もしも『地獄鏡』になった手鏡をのぞくと大変。死神に呪い殺されるとか、結婚式前に交通事故で死んだ血まみれの花嫁が襲ってくるから、もしも『地獄鏡』になったら、絶対に鏡面を割らないといけない。そう伝えられていました。


 私は仲の良いA子ちゃんYちゃんと、それからこのお呪いをおしえてくれたT美ちゃんを加えて、『天竺鏡』をやってみることになりました。


 小学生ですから、自分の手鏡というのは玩具のようなものしかなく、私は母親が使っていない小さな折りたたみの化粧鏡をかりて、風呂桶のかわりにキッチン棚に眠っていた透明なボールに水を張って、自分の勉強机の下に置いていました。


 深夜2時に起きるのは大変でした。翌朝みんなで集まると、だれもが生あくびをしていたのを覚えてます。そこでは自分がいつ結婚するか、その年齢を予想してはしゃいでいました。


 ですが放課後になって家にかえると、残念なことに透明なボールは母によって撤去され、鏡を水につけていたことを怒られました。


 それはどうやら私だけでなく、A子ちゃんも失敗していました。彼女は母親がいつも使っている手鏡を拝借したため、すぐにバレてお説教。Yちゃんは無事に『天竺鏡』を作れたのですが、夜中にライトをつけて顔をのぞいたら、光にあてられた自分の顔が、まるで稲川淳二みたいに見えて、可笑しくなって、笑っていたら、親にみつかって怒られたそうでした。


 そして最後のT美ちゃんですが、彼女はその日以来、学校にやってくることはありませんでした。


 最後に彼女の名前を聴いたのは、三学期の始め。

 親の都合で転校した、という唐突なものでした。


 噂では、あの夜から急に発狂して、精神病院に入院している、とのことでした。


 ですが、私は見ていました。


 彼女が学校に来なくなった日の翌日、通りかかった彼女の家のお店の二階の窓で、顔を包帯でグルグル巻きにしたT美ちゃんの、死んだような目を。


 大人になった今でも、ふと、こう考えます。


 T美ちゃんは『地獄鏡』を作ってしまったのではないか。


 だから狂ってしまったのじゃないか、と。



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以下、プリントアウトされた史料に貼り付けられた付箋内容


 同地区と仮定すると、R小学校は1998年にH小学校と統合。

 体験談はそれ以前のものと推定。

 糺川女史曰わく「辻褄があう」と。

 博多・鏡・天竺がキーワード。おそらく博多大仏か。

 取材前に小泉八雲の『AT HAKATA』を通読。


 

 


 

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