第25話

 俺は階段を勢いよく降りていった。長谷部尚樹の上司の女の人に会いたいからだ。美人だから、正直に言えばそうだった。階段を降り、一階のフロアにやってきた。あの女の人はいなかった。索敵をしてみたが、彼女を特定して見つけることなどできない。俺は落胆し、階段をもう一つ降りていった。地下に行くとそこには食堂があった。奥の席にいる様子はなく、索敵をすると、一つ死角に入った席に人が座っているのがわかった。


 覗いてみると見知らぬ男が座っていたのだ。男は首を傾げ、俺は頭を下げると、食堂を後から立ち去ろうとした。ちょうど食堂の横にトイレがあり、そこから人が現れた。長谷部尚樹の上司だったのだ。


「あらまあ、息を切らせて」


 上司の女は砕けた感じで話しかけてきた。そして笑顔を作る。


「あの」


 というが、彼女が続けて話をする。


「もしかして、浩太さんってそちら様でしょうか?」

「あ、そうです」

「ちょっと奢るんで、話を聞いてもらえませんか?」

「その、ダンジョンの話でしょうか?」


 彼女長谷部尚樹の上司。つまりはダンジョン探索者になる。憧れていた職業だ。長谷部尚樹も探索者だが、知り合いのせいでいまいちぱっとしなかった。けれども、目の前の女性は正真正銘の探索者。俺は緊張をしていた。


 席に座ると、注文票を無駄に見ていた。注文が決まっても、入念に調べていたくらいだ。


「これ、調べられます?」


 突然差し出されたのは、写真だった。そこには、額縁があり、写真が収まっていた。写真入れを写真で映すという不可解な絵を提示されたが、俺はその写真に写る人間を眺める。


「カッコいいですね」

「まあ、そうっちゃそうだけど」


 美人な上司はそう言って手を振る。


「別に好みのタイプってわけじゃないし、探ってほしいとかじゃなくて、つまり霊感のようなものでさ」


 鑑定しろってことだろうか。


「鑑定、すればいいんですね」


 そう言って鑑定スキルを使用する。


『写真 傷なし』


 としか流れては来なかった。俺は素直に言うことにした。


「現物を見せてもらえないと、意味ないようです」

「意味ないのか」


 彼女はそう言って財布から名刺を取り出した。


「私、村沢楓、ダンジョン探索者です」


 電話番号はなかった。俺は名刺の裏を見て確認をする。


「ちなみに彼氏も彼女もいませんので」


 村沢は何か含むような言い方をしてきたのだった。

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