第24話
病院に着くと、受付に向かった。面会をしたいと旨を伝えようとする。受付の女は不機嫌そうな顔をこちらに向け、小さな声で俺に聞いてきた。
「こちらにご記入ください」
「ああ、そうでしたね」
俺はできるだけ愛想よく努めようとしたが、言葉遣いに出るものだった。記入を済ませると、女は電話を取り上げて、俺が来訪したことを伝えていた。
「長谷部尚樹さんの部屋は」
そう言って女は部屋番号を教えてくれた。俺は階段を使って3階にやってくると、部屋を探した。どういうわけか、彼は個室部屋に入院しているようだった。部屋の扉を開けようとすると、中から声が聞こえてきた。女の声だ。低くて、歌手のような温和な声質だった。
「君は頑丈さを取り柄にしていたのにな。まあ、がっかりだよ」
冗談のようにも聞こえた。すぐに長谷部尚樹の声がした。
「そんな、これでも頑張ったんですが」
「これは真面目な話なんだが、新しいダンジョンに君がこれないのは厳しい話だな」
部屋から沈黙が流れた。俺は部屋をノックしようとしたが、再び女の声が聞こえてきた
「ところで、その向かいに住んでいる人と連絡は取れるんだな?」
たぶん俺のことだ。
「すぐに返事が来るわけではないですが」
「返ってくるだけましだろう。さっきも言ったが今度、見てほしいものがあると誘ってくれよ」
何のことだろうか。すると、部屋の扉が開いたのだ。すぐ前に女の顔がある。目を奪われたのは目つきの鋭さと、鼻の高さだった。輪郭も鼻と口のバランスも黄金比でできているような顔をしていた。可愛いというよりも、ものすごい美人なのだ。俺が声を奪われていると、女は会釈をして俺の側を通っていく。
俺はその後ろ姿を目で追っていた。
「浩太さん」
名前を呼ばれ、振り向くと長谷部尚樹がベッドに横になってこちらを向いていた。ベッドの横に椅子があり、俺はその椅子に近寄り、彼の許可を得て腰掛けた。
「今の人」
「会社の先輩です」
長谷部尚樹はダンジョンの探索者をしていると言っていた。つまりあの美人さんも探索者なのだ。
「あの人が今度誘ってくれって聞いたんだけど、もしかしてさ」
俺はつい盗み聞きした話を持ち出す。長谷部尚樹はふっと鼻で笑って少し黙り込む。
「今日は林檎ないんですね」
彼はそう言って話を逸した。
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