第23話

 俺は長谷部尚樹の前に立ち、手を貸そうとした。彼は手を振って地面に伏せたままだった。


「すみません、腰がやばい」


 長谷部尚樹はそう言って笑ってみせる。


「立っていられない?」

「救急車を呼んでください」


 俺はスマートフォンを取り出し、救急車に電話を掛ける。その間に美雨さんが裏庭にやってきて、血だらけの男の側に寄っていった。彼女は男の傷口あたりに手を当てるのだ。


「美雨さん?」


 美雨さんは振り返ると、悲しそうな顔を浮かべた。


「死んじゃう。このままじゃ死んじゃうから」

「だからといって」


 手を当てるだけで治せるのだろうか。ふと気付く。俺にはヒールという回復手段があった。俺は長谷部尚樹の側に寄り、ヒールと唱えたのだが、彼は言う。


「美雨と同じ能力があるんですか?」

「いやまあ、立てるのか?」

「すみません、治っている気がしないです」


 腰の怪我は治せないのだろうか。傷口を塞ぐことはできるかもしれないが。俺は刀で斬られたと思われる男の側に近付いた。そいつは唸り声をあげ、助けを求める目を送ってきたのだ。


「仕方ねえな」


 俺はしゃがみ込み、赤くなった服の上に手を伸ばした。


「ヒール」


 男は声を上げる。


「ありがとうございます」


 やけに素直なやつだった。


「というかすみません」


 男は立ち上がり、刀を振り回していた男の側に駆け寄る。そいつは刀を手放すと意識を失っていたのだ。


「おい、おいってば」

「お前ら、見逃すと思ってるのか?」


 俺が言うと、長谷部尚樹が横槍を入れてきた。


「どこの組のもんか知らないけど、下手に恨みを買いたくないので、ここは逃してください」


 彼は仰向けになったまま、首だけ俺の方を向いてお願いをしてきた。


「そう言うならいいけど、2度とこの家に来るんじゃねえぞ」


 俺が言うと、男は頷いて倒れている男の頬を叩いた。意識を取り戻すと、男たちは家の中に入っていこうとする。俺は念のため後を付いていった。


 2階から別の男が降りてきて、廊下にいた男も合流した。


「逃げるぞ」

「いいのかよ。このままでよ」

「馬鹿、さつに捕まらないように逃してくれてるんだ」

「わ、わかった」


 男の一人が舌打ちをするが、俺が助けた男は頭を下げ、玄関から出ていった。すぐに車が走り去る音がした。少しして救急車が来ていた。美雨さんは110をしていなかったようで、パトカーは救急車のあとに救急隊員が要請したみたいだった。後日、俺は腰を打った長谷部尚樹のお見舞いに病院に向かった。


 

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