第27話

 敷地は広かったが人通りはなくて閑散としていた。俺は村沢の隣を歩き、長くて緩やかな坂を降りていった。敷地内に坂道があるのは不思議なものだった。こういう立地は地価が高いのだろうか、とどうでもいいことを考える。


「緊張しませんか?」


 村沢はそう言って笑う。


「緊張ですか?」


 スキルを手にしてから久しく緊張らしいことはなかった。長谷部家で謎の集団と戦ったときは武者震いはしたが、特に緊張は感じなかった。


「何を考えてる顔?」


 村沢は顔を覗き込んできた。美人を前にしてドキリと体震える。


「ふーん」


 と村沢は鼻で笑う。


「どうかしたんですか?」

「いや、長谷部のところのお嬢さん可愛いよねって思って」

「それがどうかしたんですか」

「どうもしませんよ。どうもしません」


 なんか腹が立つ。けれども憎める相手ではなかった。しばらく歩くと地下に入るシャッターがあった。金網で、電気でも走っているような威圧感がある。その隣に扉があり、カードキーを差し込むと暗証番号を入力しているようだ。そして声がした。


「後ろの男は?」

「長谷部尚樹の伝手だ」


 村沢が答えると、扉が開き大柄の警備服を着た男が出てきた。


「村沢さん困りますよ。登録されてない方をお通しはできません」


 警備員は俺の顔を見ると、鼻息荒くして威嚇をしたきた。


「ボディチェックは厳重に行いますので」


 俺は扉の奥に通されると、机の上に持ち物を出すように言われる。村沢は横で見守るだけだった。

 ポンポンと服の上から叩かれると、ズボンの下まで叩かれていく。


「まあいい」

「ここまでする必要ある?」


 村沢はちくりと警備員に言うが、彼はこのボディチェックでも何処か腑に落ちないようだ。何か言いたげである。


「ここ最近になって、襲撃事件が多いので」

「まさかと思った?」

「もしかしたら村沢さんが弱みを握られていることも」


 村沢は警備員に肩をドンと叩くと、睨みを効かせる。


「それは癪に触るね」

「すみません」

「まあいいわ。もういいだろ?」


 警備員はくいっと顎を上げる。通っていいという意味だろう。廊下を歩いているとき、村沢が話しかけてきた。


「あんなに調べられたのは初めてだよ」

「襲撃事件がどうとか」

「頻繁にあるんだけどね」

「そうなんですか?」

「藤川さん、ガンでもつけたの?」

「え、あの警備の方にですか?」

「まあええわ」


 村沢が先に角を曲がると、再度カードキーを手にした。


「ここから先は引き返してもいいから」

「そんなに危険なんですか?」

「視える人にとっては危険らしい」


 らしいって推測なのか。俺は視えるほうだし、と気を引き締めて扉を通り抜ける。ぐっと向かい風が吹き、体を屈めそうになる。


『霊感が1上がりました』


 なるほど、と頷く。

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