第28話

 棚に無造作に様々な物が並んでいた。短刀、鎖、瓶等。それら数十点のすべてからモヤが漂っていた。短刀の側を通ると、俺を包み込むように黒いそれが伸びてきたのだ。俺は手を払い、蚊を避けるように空を切った。


「大丈夫か?」


 彼女を見ると、俺は呆然とした。人がいたのだ。村沢の奥にひっそりと佇んでいる。顔面は白く、身長は高かった。そして吸血鬼のような顔をしていた。俺はそいつと目を合わさないようにした。


「気味が悪いね」


 村沢がそう言うと、俺は沈黙した。なんて答えればいいのか頭の中が思考停止しかけたのだ。


「そうですね」


 村沢はスタスタと歩き、男の手前で止まった。俺は男を見ないようにして村沢の隣に立った。

 彼女の前に棚に置かれた写真立てが置いてある。それは食堂で見せてくれたものだが、写真立ての周囲にモヤはない。


「これなんだが」


 村沢は写真立てを指差すが、男に気付いてはいない様子。男も身動きが取れないのか、ぴくりとも動かない。

 村沢は指を差すのを止めて、俺の後ろを歩き出した。


「帰ろうか」

「あ、はい」


 扉から廊下に出る。部屋を後にする。俺が話しかけようとすると、彼女は俺の口元を手で塞いだ。


「帰ろう」


 ダンジョン協会の建物を出ると、敷地内を歩いてるとき、村沢はボソリと話した。


「君の顔色でわかった。そして視線が一点に集中していた。何かいたんだろ?」

「いました。吸血鬼みたいな男が」

「何か勘づかれることはしたか? 視線を合わせるような。建物の方は振り返るな。タクシーに乗って帰ろうか」


 村沢は静かに話す。俺は振り返らずに村沢のあとを歩いた。そして敷地外にあるタクシーを拾って乗った。タクシーが停車する。村沢は紙切れにメモを書いた。


「迷惑をかける。もしものときはこの電話番号に掛けてくれ。もう一つは最終手段にしてくれ」


 そう言ってメモ寄越すと、タクシーは俺の家の前を走り去っていった。

 メモには。電話番号が2つ書いてあった。片方は村沢のもの。もう一つは村沢の会社の緊急連絡先だった。


『ストレス耐性9を取得しました』


 家に上がると、ベッドに横になった。明日のバイトに遅れないように、早めに寝ようとしたが、寝付けの悪い日だった。スマホを手にすると、午前1時を指していた。喉が乾いたので、俺はスマホを手にして一階にある冷蔵庫まで階段を降りていった。


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