第29話

 冷蔵庫の扉に手をかけると、背後からひんやりとした風を感じた。寒気を覚え、後ろを振り向くがテーブルの上に散らばったチラシが置いてあるだけだった。テレビの黒い影を見て、昨日の悪寒が再びやってきた。誰かいる。それも俺が視ることのできない物体が間違いなくいるのだ。


『ストレス耐性10を取得しました』

『索敵2を取得をしました』


 索敵のスキルレベルが上がっていた。俺は索敵を使用すると、思わぬ結果となったのだ。


 この周囲に10人がいる。両親が2人計算でも、他に8人がいることになる。周囲がどれだけの範囲かわからない。それが大きな欠点だった。俺は家を飛び出した。近所の公園にたどり着くまで、索敵を繰り返し使用するが、8人となっていたのだ。


 公園に入ると、再び索敵を使用した。8人。つまり俺の周りには見えない何かが8人いることになる。


 周囲を観察していると、ふと街路樹の側にある蛍光灯の下に男が立っているのがわかった。ゆっくりとだが、男が歩いてくる。


「やあ」


 と言って男は手を挙げた。よく見ると、吸血鬼の男に人相が似ていたのだ。


「見えているんだろ?」


 俺は心剣を呼び出した。


「物騒なのは仕舞いなさい」


 今度は後ろからだ。背後にもう一人いるのか。気付くと、俺を取り囲むようにして8人の男が立っていた。それぞれが同じ顔をして、同じ服装だった。

 

「どうやっているのか。不思議だろう。魔術なんだ」


 始めに姿を見せた男が声を発した。


「普通の人間には扱えない。たまに君みたいな人間が現れる。そういう人間を食べるとレベルがあがるのさ」

「俺を食べようというのか」


 俺は大声を出した。男は不敵に笑い、急に舌打ちをした。


「伏せろ」


 大きな声がし、もう一度聞こえてきた。


「藤川、いいから伏せろ」


 俺が屈むと、周りの木々がバッサリと倒れ込んだ。

 声のした方向に、村沢が立っていた。傍らには大男がいる。彼の手元にはそれまた大きな銃のようなものがあったのだ。


「藤川、敵はどこにいる?」


 村沢が大声で聞いてきた。俺は周囲を見渡す。真っ二つになって地面に倒れているのが、5人。3人は生き残っていた。蛍光灯の側で話していた男と、村沢のほうに突進していくのが2人いた。


「村沢さんの前方に2人」


 俺が言うと、円盤のようなものが周囲を切り裂いていた。村沢の隣にいる男が撃っているのだろうか。


「終わったか?」


 村沢が言うと、笑い声が聞こえてきたのだ。大男の唸り声がし、俺は村沢の方を向く。大男は上空に銃口を向けて雄叫びを上げていた。そこには巨大な羽を生やした男が浮かんでいたのだ。


 

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