第3話

 特攻服を着た男は、金髪で180くらいの身長があった。俺のすぐ前に立ち、顔を見下ろしてきたのだ。手を伸ばすと胸ぐらを掴まれた。


「謝れ」

「す、すみません」

 

 胸ぐらを掴まれたままだった。男の後ろに彼の仲間達が集まってきた。誰も止めやしない。俺は尿意を感じ、今すぐにでも漏れそうになっていた。

 しかしながらこんなところで漏らすわけにもいかず、頭の中は恐怖と焦りでいっぱいになる。


「それが謝る態度か?」

「え」


 頭の中が混乱してきた。何か声がしたと思ったが、機械音のようで、幻聴を聞いたと思った。


「謝りました」


 俺は声を上げた。


「謝りましたが」

「なんだ、急に威勢が良くなってよ。反省してねえな」


 すると別の男が金髪の男の隣に立った。肩を突き飛ばされ、俺は地面に尻もちをついた。


『ストレス耐性3を取得しました』

『耐久が1上昇しました』


 再び頭の中で機械的な声が聞こえてきた。ストレス耐性と耐久がどうのこうの。


 俺は立ち上がる。呼吸を整えると、相手の顔を見た。よく見ると、金髪の男は鼻が少しだけ曲がっていた。隣の大男は耳がカリフラワーのようになっている。柔道経験者はそんな耳になっていると聞いたこともある。

 相手にしたら絶対に殺される。


 俺は後ろを確認し、勢いよく駆け出した。足がもつれることもなかった。後ろから怒声をあげて追いかけてくるが、たまにランニングをしていたのと、中学生のときに陸上部にいた経験で、追いつかれることはなかった。バイク音がし、振り返るとバイクで追いかけてきていた。ヘルメットは付けていない。


『風魔法、ウィンド1を閃きました』


 頭の中でまた声が聞こえてきたのだ。バイクが横に並び、運転手の後ろにいる男は鉄パイプを振り回していた。どこかにカチコミにでも行く予定だったのか、と冷静に頭を働かせた。

 鉄パイプが俺の顔の直ぐ側で振られた。ビュッと風の音がした。


 俺は急に速度を落とすと、バイクは旋回して俺の方に突っ込んできた。ここまで殺意を向けられたことがなかったが、胸が高まる感じがした。そうだ、ダンジョンを生業とする探索者になると決意したとき、俺はこんなワクワクを心の中で感じていた。


 手をかざすと、後方から勢いよく風が吹いてきた。


「よく分からねえけど、ウィンドって言えばいいんだよな。いけウィンド!!!!!」


 突風が吹き、バイクが横転しそうになる。そのままスライディングする姿勢になり、バイクが地面と摩擦していく。壁に衝突するときには速度を落としていたため二人は大事には至らなかったようだ。


 俺は走ってその場を後にした。

 

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