第13話

 長谷部尚樹はすぐに電話に出てくれた。


「手紙読みました」


 俺が第一声に言うと、長谷部尚樹は急にドモッた。


「手紙なんてあまり書かないから調子に乗って」

「いや、いい文章だったよ」


 俺は上から目線で言うと、長谷部尚樹はゴホンと咳払いをしたのだ。


「ちなみに美雨の友達もついてきますので」


 何を察したのか、長谷部尚樹はまた釘を差してきた。でも、どこか期待していた自分もいた。代理の保護者みたいなものなのか。


 当日になると俺は新宿のアルタ前に目印のアニメデザインの入ったブランド物の帽子を被ってきた。しばらくしてスラッとした女性が歩いてくるのだ。帽子とサングラスをつけているが、どんな男が見ても目を奪われる。彼女は俺の前に立つと、サングラスをすっとずらした。二重の目で見つめられ、俺は声を失ってしまう。


「藤川浩太兄さんですか?」

「はい。浩太兄さんです」

「急用ができちゃって、友達の明美が来れなくて、私と二人です」


 二人きりなのか。こんなセーターを着て、下は短いズボンを履いている女の子と二人きりなんて、俺は思考が止まりそうになる。


「よろしくお願いします」

「じゃあ行きましょう」


 途中で男の視線を痛く感じるが、カップルってこんなに見られるのか。カップルじゃないが。俺と美雨さんは付き添い関係だ、と言い聞かせる。


 新宿の京王線に着くと、美雨さんは指定席券を2枚取り出した。


「京王ライナー乗りたかったんです」

「指定席券ありがとうございます」


 俺は券を受け取るが、さきほどから会話がうまく行かなすぎてる。俺のバカ野郎。京王ライナーが着くと、俺は指定の席に腰掛けた。


「初めて座る」

「そうですよね。なんか感動しちゃいますよね」


 俺はこんないい子と一緒に入れて感動していますが。案の定、京王線が八王子に入っても、俺は会話を上手く続けられなかった。けれども、美雨さんは決してつまらなそうな顔をしないのだ。急に長谷部尚樹の言葉を思い出す。


 浩太兄さんのお嫁さんにはできませんが。


 なんて制約なんだ。


 しばらくして、京王ライナーは高尾山口に到着した。


「どこに行くんですか?」

「鬼八神社っていうところです」

「神社ですか」

「その近くにあるトンネルです」

「トンネルですか」


 へえ、と呟く。トンネルの心霊スポットって怖いってもんじゃねえな。


「あの」

「はい」

「何か怖い目にあったら、その」


 美雨さんはじっと見つめてきたのだ。


「長谷部さんは僕が守るので」


 言えた。俺は言ったぞ。


「お願いします。私も霊感強いので」

「視えたら怖いでしょ?」

「そういうときもありますが、何でも怖いもんじゃないです。優しい幽霊さんもいますしね」


 優しいのは長谷部美雨さんだよ。


「やばい幽霊は任せてください」

「そのときはお願いします」


 なんか自然な会話ができてないか。

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