第8話

 柵を伝って門から離れたところに向かった。遠目で門の様子を確認し、ドコデモックが去るのを待つ作戦にした。時間が経てば、俺を取り逃したと思うはずだ。子供のいたずら程度で考えてくれるだろう。しばらくしたら、門の近くにドコデモックの男を含めた警備の人達が集まりだした。そして話し合いが終わったのか、彼らは散り散りになって門の側を離れていくのだ。


 スキルの索敵を使い、側に人がいないか確かめた。気配はしない。門の近くにやってくると、再び索敵を使用する。駐在所には誰もいなかった。門の外側に気配を感じない。俺は門を通過し、病院の敷地外に出た。通りを歩いていると、後ろからバイク音がした。どういうわけか、バイクは俺の側の車道で停車したのだ。

 

 振り向くと、ドコデモックの制服を着た男がバイクから降りて警棒を引き抜いた。周りには警備の男以外に誰もいない。


「ごめんなさい」


 俺は謝るが、男は警棒を下げるつもりはないらしい。


「何者か知らないが」


 男からは緊張を感じられた。


「その、ちょっと度胸試しをしたくて、ご迷惑おかけしました」


 俺は頭を下げる。ところがドコデモックの男からは意外な返答がきた。


「プロやろ。あんたプロなんだろ?」


 男の声は震えていたのだ。


「プロだなんて、何のプロか知りませんが」

「誰を殺しに来た」

「誰も殺しませんよ」

「いないんだよな。あんたみたいに修羅場乗り越えてなさそうなのに、全然気配ないやつって、プロに違いないんや」


 男はプロと言い、警棒を持った手は震えていた。


「見逃してもらえませんか?」

「ぐぬ」


 自分で言っておいて、相手の言うプロぽい発言をしたことに気付いた。


「ごめんなさい。本当に素人なんです」

「ほら見ろ、本性を現した。プロは自分のことを素人言うんや」


 男はゆっくりと間合いを近づける。このままでは叩き殺されると思い、咄嗟にハイドと口にした。俺の姿が男から見えなくなる。


「に、忍者? うわああああ」


 ドコデモックの男は踵を返し、バイクに乗って走り去ってしまった。俺はハイドが終わると、走って家に帰ることにした。変な噂が立たなければいいんだけど。家に着くと、家の中はすっかりと暗く、俺はベッドに入って眠りに就いた。翌日のこと。


 朝食を食べていると、母さんがお願いをしてきた。


「お願いがあるんだけど」

「ん」

「向かいの長谷部さんのおばあちゃん、入院してるのよ。大地病院にさ」

「大地病院って公園の近くにある?」

「そう」


 そこは俺が昨夜侵入したところだった。


「林檎、届けてあげてくれない?」

「え、付き合いあるの?」

「そりゃあ、あるわよ。町内会でもお世話になったし、でも急用ができていけないのよ」

「日を改めればいいじゃん」

「あらそういうのね」

「何があっても行かねえから」


 母さんはニヤリと笑みを浮かべる。


「長谷部さんの娘さん、可愛らしくなったわよね」

「いやいや行かないよ。よくわかんねえし」

「あらそう、ねえ、お願いよおお」


 母さんは頭を下げるのだ。困ったことになってきた。





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