第33話

「ドアを開けていいんですか?」


 俺はスタッフに聞いてみた。


「我々も困っておりまして、この先に何があるのか。穴を空けるのも考えたんですが」


 ドアを開けていいと捉え、回すタイプのドアノブに手を掛けてみた。絵の中にあるドアの枠が露になり、紫色に光始めたのだ。一同は無言で見つめていた。振り向いて周りを確認するが、この光は見えないのだろうか。霊的な何かを思わせる。しかしながら、長谷部尚樹だけは反応していた。


「光ってる」


 彼はそう言って口を開けて唖然としているのだ。


「尚樹くん、何、何が光ってるんだ?」


 竹さんはそう言うが、長谷部尚樹は瞬きを数回すると、口を閉ざし何も言わなかった。俺はドアを開けていいのか再度確認することにした。


「開けますよ」


 竹さんはそう言われ、ごくりと固唾を飲んだ。


「開けられるものなら、開けてくれい」


 竹さんが言うと、俺はドアノブに力を込めた。固い。力を精一杯入れるが、ぴくりとも動かなかったのだ。俺は一旦、ドアノブから手を引いた。


「やっぱり開けられないか」


 竹さんが言うと、スタッフがドアノブに触れた。


「本当に壊したらいけないのかな」


 ぼそりと呟く。


「壊さないほうがいいですよ」


 俺が言うと、スタッフは頷いた。


「各方面に相談したところ、ドアノブを破壊するのは縁起が悪くなると言われました。霊媒師の話なのですが」


 紫色に光輝いたということは、呪われている可能性がある。霊的なものが介在するならば、お祓いをすべきだろうが、俺はこの先に何があるのか気になっていた。試しに、索敵をしてみる。

 周りにいる三人と、ドアの向こう側には誰もいなかった。反応がないのだ。


「あれ」


 俺は思わず声をあげた。


「浩太さん、どうかしました?」


 長谷部尚樹が言うと、俺は首を振った。


「いやなんでもないけど、本当に開くのかな」


 向こう側に誰もいないなら、何のための扉なのだろうか。もしかしたら、ダンジョンゲームみたいに宝箱があったりするのだろうか。


「スーパーマンにも無理だったね」


 竹さんはそう言って、階段の踊り場から離れようとした。スタッフがタオルを手に取り、ドアノブを隠すために掛けようとした。その時だった。長谷部尚樹がドアノブに近づいたのだ。


「もしかしたら」


 彼はそう言って、ドアノブに手を掛ける。ドアの枠が光り、ゆっくりと開いていったのだ。


「開いた」


 長谷部尚樹が言う。


「尚樹くん、開いたってどういうことだい?」


 竹さんが言うと、俺は竹さんの顔を見た。長谷部尚樹のことを疑問に思っているような顔をしていたのだ。


「竹さん、開いてるじゃないですか。ドア、開きましたよ」

「何を言ってるんだい。ドアは開いてないよ」


 スタッフも首を傾げる。二人はドアが開いたのが分からないのだろうか。

 俺はドアの向こう側に何があるのか、隙間から覗いてみた。真っ暗かった。宇宙や闇の中のように真っ暗なのだ。不気味で、俺は足がすくむのを感じた。長谷部尚樹も闇を覗くと、ドアノブを離し、ドアはゆっくりと閉まろうとした。


 次の瞬間、俺は別の空間にいた。周りにはトレーニング器具があり、ジムのようにウェイトの器具も置かれていた。長谷部尚樹がいて、竹さんとスタッフはいなかった。そして、もう一人、背中から白い羽を生やした男が立っていたのだ。


 男は筋骨隆々で、タンクトップを着ていた。タンクトップの隙間から羽を伸ばしている。一瞬、コスプレをしていると思ったが、男の背中にはそういう仕組みは何もなかった。直に背中から羽が生えている。

 

「やあ、僕はマッスルフェアリーだよ」


 男は名乗ると、胸筋を膨らませた。長谷部尚樹の体と比べても、マッスルフェアリーの体は一回りも二回りも大きかった。アメリカのジムにいそうな体の大きさだったのだ。

 長谷部尚樹は呆然と、マッスルフェアリーを見ていた。


「君が、挑戦者かい?」


 マッスルフェアリーはそう言って、長谷部尚樹のことを指差すのだ。

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