第11話
白い影は薄っすらとしていて輪郭までは分からなかった。遠くからベッドの下を覗き込んでいると、長谷部尚樹はベッドの下に目掛けて塩を撒いたのだ。幽霊はすっと消えた。
「なおちゃん」
長谷部淳子さんが声を上げた。
「ばあちゃん、今看護師さんを呼んでくるから」
そう言って長谷部尚樹が廊下に出る。ナースコールを押すか迷ったが、ここは尚樹に任せよう。走っていく姿を見送ると白い影が彼を追っていくのが見えたのだ。
俺は長谷部淳子さんをおいて、廊下に出た。白い影は静止し、別の部屋へと入っていく。すぐに長谷部尚樹が看護師と一緒に廊下を小走りで向かってきた。すれ違うときに、さっと長谷部尚樹の腕をつかむが、勢いよくて体重が持っていかれ尻もちをついた。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ、君強いね」
俺はそう言って苦笑いを浮かべる。手を借りて立ち上がると、俺は白い影の入っていった部屋を指さした。
「例の幽霊、この中に入っていった」
「まじすか、戦いは終わってないんすね」
「入る?」
「もちろん」
扉を開けると、空気の悪さを感じた。四人部屋の大部屋だが、ベッドに寝ている人がガタガタと震え、側にいるおじいさんと目が合う。
「あ」
と、おじいさんは声を出すが、長谷部尚樹はさっとベッドの側に駆けつける。
「藤川さん、この近くにいますよね?」
俺は索敵を使用するが、気配は6人。天井に張り付いているのがいた。
『霊感が1上がりました』
白い影の輪郭が見えた。ボロボロの服を着ている浮浪者のようだった。俺は幽霊を可視化することで気持ち悪くなる。
『ストレス耐性5を取得しました』
『ヒール1を閃きました』
長谷部尚樹が俺の名前を呼んでいた。
「藤川さん」
「あ、浮浪者みたいなのが天井にいる、でも天井をすり抜けるかもしれない」
「浮浪者みたいな幽霊だったんですか」
長谷部尚樹は塩を入れてある袋を握りしめたまま止まってしまった。今さっきヒールを覚えたが、これで退治できないだろうか。
「藤川さん、浮浪者の人と会話できますか?」
「え」
「いや、どうしてばあちゃんに憑いていたのか知りたくて、きっと寂しいんじゃないかなと。勝手な想像ですけどね。聞いてもらえますか?」
浮浪者の幽霊はすっと天井から降りてくると、長谷部尚樹の前に立った。そして小さく呟いていた。
光の柱のようなものが現れると、すっと幽霊は消えていった。
「消えちゃったわ」
「そうですか。ありがとうございました」
俺は周りを見て病室の扉の方に向かう。廊下に出ると、すぐに長谷部淳子さんの病室の前に。看護師と医者が集まっていて、中に入れるような感じではなかった。
「尚樹君、林檎、消灯台の上にあるので」
「ありがとうございます」
俺は立ち去ろうとしたが、振り返って長谷部尚樹を呼んだ。
「ありがとう、だってよ」
「え、何がですか?」
「浮浪者の幽霊が言ってた」
「あは、そうですか。成仏してくださいと伝えてください」
俺は病室の前を立ち去る。そして病院を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます