第6話
駐在所は小屋くらいの大きさだった。青い制服を着た警備員が椅子に腰掛けている。あと一歩踏み出せば、警備員の視界に入る。俺は引き返すか迷っていた。呼吸を浅くし、気づかれないように立つ。
常識的に考えれば、深夜の病院に忍び込むなど、不審者のやることだ。ちょっとした悪ふざけでも、迷惑をかけることになる。どうするか。俺の思考を歪めたのはあの機械音だった。
『隠密3を取得しました』
俺は一歩踏み出した。警備員の方を確認せずにもう一歩踏み出す。警備員の視界のいつ入ってもおかしくない。けれども、隠密のレベルを上げるためにはリスクを取らなければならない。
『隠密4を取得しました』
俺は小走りに駐在所の前を通り抜けた。大きく呼吸をする。ストレス耐性がなければ軽いパニックになっていたかもしれない。
病院の敷地内にある建物を目指す。周囲を見回しながら巡回している警備員を探す。物音がして、急いで木の陰に隠れた。
『隠密5を取得しました』
『ハイド1を覚えました』
ハイドってなんだ。俺は試しにハイドと小さく呟いた。後方から自転車がやってきて、警備員が降りたところだった。俺は走って逃げようとしたが身動きがとれず、警備員は何かをつぶやきながら辺りを歩き回った。
「誰かいた気がしたんだがな」
俺は声を出さずに、呼吸音も小さくした。けれども、警備員は俺のことが視えないのだろうか。警備員が立ち去ると、俺は足を動かすことができた。
「ふむ」
一人納得したように声を出すが、何が起きたのか全然分からなかった。病院の建物のほうに走っていく。途中で、赤いライトに当てられ、俺は立ち止まった。周囲を見るが、建物の入り口からライトが照らされているようだった。キリキリとした警報が鳴る。
周囲を観察すると警備会社のロゴと思われるアルファベットが壁に貼られていた。ドコデモック、有名なレスリング選手が会社の広告塔に使われているのを思い出す。
俺はやばいのに見つかったかもしれなかった。
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