あの世で女神様からスキルをもらっていた

みやもとはるき

第1話

 俺の名前は藤川浩太。趣味はこれと言ってない。少しだけ筋トレをしているが、ジムに通うほどでもない。読書はあまりしないが、トラックに轢かれると異世界に行く、異世界物が流行っているのは知っている。

 実家に親と一緒に三人暮らし。兄は俺が20歳のときに家を出ていった。

 30になっても彼女はおらず、彼女いない歴は年齢とイコールになっている。友達で亡くなったのは10人いる。仲の良かった親友では1人いるのだけど、この時代には死と隣り合わせになる職業があった。


 それが探索者だった。


 探索者はスキルやステータスなどなく、生身の人間がモンスターと呼ばれる化物と戦い、深層にある財宝を取りに行くのだ。ダンジョンと呼ばれ、その中は日によってランダムに変わっていく。初めからドラゴンだの、デーモンだの、強力なモンスターに出会ってしまうわけだ。

 俺の親友は最近になって亡くなった。葬儀のときは不思議と涙すら出なかった。俺っておかしいのかと思ったくらいだ。


 ダンジョンに興味を持ったのは、それからだ。

 どうしてなのかはわからない。ただ俺はダンジョンに惹きつけられた。親友の仇を討ってやると、頭では考えるが、心の内では高鳴るものがあった。何かはわからない。ただダンジョンに惹きつけられたんだ。


 ということで、俺は渋谷にやってきている。


 渋谷のセンター街通りを真っ直ぐ行くと、ハローワークがあり、そこでダンジョンに登録している会社を紹介してもらえる。もしくは、公務員になってもダンジョンを探索できる。自衛隊に入ってもいいのだが、そうなると、本格的な探索をしなければならず、死亡率もかえって高くなると聞いていた。

 

 渋谷のスクランブル交差点を渡っているとき、ふと俺は背中を押された。悲鳴が聞こえ、力強い足音がいくつも聞こえてきた。悲鳴は止まず、俺は地面に倒れ込んでいた。

 激しい衝突音がし、怒声と悲鳴が混ざる。


 そして俺は倒れたまま見てしまった。トラックが速度を上げて俺のほうへと突進してくるのだ。俺は慌てて逃げようとした。最期に見たのはトラック運転手が居眠りをしているところだった。



「こんにちは」

 

 あれ。俺今轢かれたよな。そう思った矢先、誰かが挨拶をしてきた。


「こんにちは、聞こえてますか?」


 振り向くと、小さな女の子が立っていた。周りは真っ白い部屋で、赤毛の女の子が俺の顔を覗き込んでいるのだ。


「俺、死んだはずでは?」

「ええ、残念ながら」

「やっぱり死んだのか」


 俺は肩を落として、体育座りをした。そして顔を足の間に入れる。


「落ち込まないでください。それに時間がありませんので」

「時間がないってどういうこと?」

「藤川浩太さんの肉体が焼却されてなくなるまでです」

「無くなるのって現世にいる体の話だよね?」

「ええ、そうですけど、だから」

「別に構いませんが」

「だから」


 俺は暗闇を見つめながら絶望していた。


「死んだんですよね?」

「そう、悲しまないでください」

「え、どうして?」


 俺は顔を上げた。そして女の子の顔を見て怒りを抑え込んだ。


「怒らないで聞いてください。藤川さんは生き返れるんですよ」

「それを、それを早く言えよおおおおおおおおお」

「だから燃やされる前に」

「早く言えってええええええええええ」


 俺は立ち上がって、女の子の肩を揺さぶろうとしたが、触る直前に、相手が女の子だと思って手を引っ込めた。


「そしてプレゼントがあります」

「プレゼントなんていいから」

「上げることになっているんです。じゃないと神様に怒られちゃうんですから」

「早く生き返らせろって」


 俺は周囲をうかがい、茶色い扉を見つけた。ぽっかりと白い空間にある扉は現世への入り口のようにも見えた。


「あの扉か?」

「ああ、だからスキルを差し上げますので」

「そんなのいいから、俺の体が燃えるだろ」


 俺は走って部屋の中を扉に向かう。


「スキルを差し上げますから!」


 俺は扉に手をかけていた。



 扉が開かれると、俺は目を開けた。顔にタオルのようなものが掛けられ、それを取り除く。蛍光灯の明かりは灯っていない。暗い部屋。静かで、隣には啜り泣く声が聞こえてきた。

 隣には母さんがいた。


「浩太、浩太、起きて」


 と、小さな声で俯きながら呟いている。


「なんだよ」


 俺がそう言うと、反対側で怒鳴り声が聞こえてきた。


「浩太、なんだその言い草は、浩太が亡くなって悲しんでいるんじゃないか」


 父さんが俺を叱るのだが、頭がおかしくなってないか。


「俺は今生き返りましたが」

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