第19話
「妹さんに視えて、俺に視えないことはないと言いたい?」
「そうなんですよ。妹の力を証明してください」
電話が切れると、俺はベッドの上に腰掛けた。正直に言えば美雨さんに会いたい。会いたいが、それを全面的に出す気はない。少し時間を遅らせて向かいの家のインターフォンを押しに来た。
「遅いじゃないですか」
「これでも急いだほうだよ」
玄関を抜け、リビングに通された。テレビが窓の側に置いてあり、その手前に鞘が置いてあった。きちんと支えのようなものに飾られている。そこから禍々しい黒いもやが立ち込めているのだ。
「これなんですがね」
長谷部尚樹はそう言って刀を指差す。
「やばいね」
俺はどうとでも取れるような発言をした。それよりも美雨さんの姿を探す。彼女はリビングにはいなかった。
「やばいって、やっぱり憑いてますか」
「憑いてるというか、大いに憑いてる。憑きまくりだよ」
あながち間違いではないが、誇張して教える。
「逆に聞きたいんだけど、普通の刀に見えるの?」
これは素朴な疑問だ。
「そうですね。普通に見えますが」
そう言って長谷部尚樹は刀の方に近づいていく。鞘を手に取る。
「抜くのはやめたほうが?」
「裏にある倉庫に眠っていたんですよ。美雨が見つけると、怖がってしまって。それで浩太さんに確かめてもらおうと思って」
俺は彼を止めに一歩前に出るが、長谷部尚樹は刀を元の位置に戻した。
「抜くかと思った」
「取り憑かれたりしませんよ」
尚樹が刀を持ったとき、彼を取り巻くように黒いもやが覆っていたのだ。
「冗談抜きで絶対に抜かないほうがいい」
「大袈裟ですよ」
長谷部尚樹は笑うが、俺と目を合わせていると怯えた表情を見せた。
「これは仕舞っておきます」
「そうした方がいいと思う」
事件は次の週に起きた。俺は昼間に寝ていると悲鳴を聞いたのだ。飛び起きて2階の窓から外の様子をうかがう。向かいの長谷部さんの家が窓から見えるが、何か様子がおかしく見えた。車が一台、長谷部さんの家の側に停めてあった。車内には人がいる様子はない。
『分析5を取得しました』
『鑑定を閃きました』
俺は機械音を聞いた。悪い予感がした。今までスキルを覚えたりレベルを上げたときは意味があった。あの車を調べることに意味があるのだろうか。俺は試しに1階に降りると、玄関の扉を開けた。そして車を鑑定してみたのだ。
「車種、レイサス、盗難車」
俺はゾッと寒気を覚えた。回り込んで運転席を覗くと男が座っていたのだ。
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