抜け道さがし
「不味いぞ、こんなのどうすれば……」
釜の淵ダンジョンの第三層に存在する「アイアンリザード」は物理攻撃に強いが、ヨミは剣と盾、たいまつしか持っていなかった。
(まさか、たいまつであぶって倒せるとは思えないしなぁ……)
アサヒはネット上で「アイアンリザード」の写真や動画をいくつか見つけた。
灰色のトカゲの体躯を包んでいる皮膚は石のようで、いかにも硬そうだ。
たまたま出てきた攻略動画をアサヒが見てみると、アイアンリザードは探索者に遠巻きに囲まれて、彼らが投げつける爆弾や、毒の魔法で仕留められていた。
(うーん、ネットの情報のとおりだな……まてよ?)
動画を見てみると、アイアンリザードの足は結構遅い。
探索者がリザードに近づくと、サッと動いて噛みつこうとしてくるが、探索者が遠くにいる分にはのっそりと動いており、さほど危険には見えない。
(そうか、逆に考えよう。こいつは別に倒さなくても良いんだ。)
アサヒは開いていたノートに「アイアンリザードは近づかなければ回避できる」と鉛筆で書き込んだ。
(ヨミの装備でアイアンリザードは無理に戦わない方がいい)
アサヒは釜の淵ダンジョンの第三層以下にいるモンスターの情報を集めていく。
第三層ともなると、単純な物理攻撃だけでは倒せない敵が出てくるようだ。
(うーん……思った以上に厄介なモンスターがいるなぁ……)
次にアサヒを悩ませたのは、第三層のボスモンスターだった。それはスピリットという
スピリットとは、半透明でおぼろげに光り、人や動物の姿をとるアンデッドのことで、かつて生きていた様々なものに似ているように見える。
しかし、彼らが本当にこの世を去った存在なのか、それとも別種の存在なのかは未だによくわかっておらず、ネット上でも散々議論されている。
アサヒはダンジョンに現れるスピリットの動画を見てみるが、騎士の姿であったり、美しい女性の姿であったり、はたまた可愛らしい犬の姿もあった。
(本当にバラバラだな……とらえどころが無さすぎる。)
アサヒを悩ますのは、スピリットの形が定まっていないことにあった。
これだけ覚えておけば大丈夫。スピリットにはそういった攻略法がないのだ。
(スピリットはその姿によって攻略法が変わる。まずは釜の淵ダンジョンのスピリットがどんな姿をしているか調べよう)
アサヒは釜の淵ダンジョンにいる、スピリットの姿を調べてみることにした。
彼は注意深く信頼できそうなもの、そうでもないものをより分けていく。
すると、いくつかの情報が見つかった。
肝心の釜の淵ダンジョンには、大きな狼のスピリットが出てくるらしい。そしてスピリットには実体がなく、鋼の武器が通用しないようだ。アイアンリザードと違って、動物の姿を取ったスピリットは移動速度が速い。壁も通過できるため、無視して進むのは難しそうだった。いや、そもそも――
「ボスモンスターってことは、こいつを倒さないと先に進めないってことだよね」
アサヒがいったように、ダンジョンにはボスモンスターと言う存在がいる。ボスモンスターは第三層から現れる存在で、次の階層へ降りる階段を守っている。そして、ボスモンスターというだけあって、その階層の他のモンスターより強力な存在だった。
(第一層、第二層にはボスがいなかったけど、第三層から出てくるんだな……)
ダンジョンの構造はボスモンスターの間隔も含めてそれぞれ違う。すべての階層でボスが出てくるダンジョンもあれば、全く出ない場所もある。また、奇数、偶数といった何らかの規則性を持って出てくるものもあり、バラバラだった。
そして、釜の淵ダンジョンは不規則なタイプらしい。
(こういうのが一番困るんだよなぁ。ま、嘆いてても仕方ない。)
現状、ヨミは物理攻撃しか攻撃手段を持っていない。アサヒは物理攻撃でスピリットに対処できないか、何か抜け道がないか調べることにした。
(うーん……まぁやっぱそうなるかぁ)
スピリットに対して物理攻撃でダメージを与える手段はかなり限られている。
ネット上でオススメされていたのは、火や雷と言った魔法で攻撃すること。その次が銀の剣で攻撃することだった。
(銀の剣なんて、ヨミはもってないからなぁ)
彼女が持っている剣はただの鋼の剣だ。
それで巨狼のスピリットに挑んでも、彼女はきっと返り討ちにされるだろう。
まさか無策で突っ込ませるわけには行かない。
(いや、僕は『伝説の探索者』なんだ。何か良い手段はないか?)
アサヒはネットで情報を調べ続ける。
すると、彼はある情報を発見した。
「なるほど、スピリットは死んだ後、安息を得られない存在か……故人の求めを叶えてやること、正さねばならない不公正を正すこと、か」
(でも狼のスピリットの未練や、感じている不公正ってなんだ……?)
アサヒはキーボードを叩き、ニュースサイトを回る。
そして、ある記事を発見した。
「――なるほど、こういうことか」
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