…え、バズってる!?


 ヨミの配信が終わった後、アサヒは「はっ」とあることに気がついて慌てた。


「次のヨミの配信は、きっと第三層の攻略になる。もしかしたらその先も……」


 彼女はダンジョン配信に慣れていない。

 アサヒのコメントだけが頼りになるはずだった。


「彼女が危険な目に合わないよう、ダンジョンのことを先に調べておかないと」


 彼はパソコンにむかい、メモ帳ソフトを開く。


 そして、ダンジョン探索に関係するネット掲示板や、ダンジョン配信の切り抜き動画を回って、第三層より下の階層の情報を調べることにした。


「彼女の潜っているダンジョンは、この世界に現れたダンジョンでも、最近現れた初心者用のやつだ……最下層までの情報があるか、ちょっと不安だなぁ」


 アサヒはダンジョン探索者が良く出入りする、ネット掲示板のいくつかのスレッドを巡回していく。すると――


「え……えええええ!!!!」


 アサヒは、そこで信じられない物を目にした。


★★★


121:風吹けば名無し

このヨミっていう過疎配信者、やばくね?

これ初配信の動画。

初心者用の剣と盾で2層まで突破してる。



122:風吹けば名無し

マジかよ、初心者装ってんじゃねーの?

このヘボ装備、どう見てもやり込み勢やろ



123:風吹けば名無し

いや、配信者本人はガチ初心者やで。

だけど、コメント通りに動いて突破しとる。



124:風吹けば名無し

ほんまか

このコメント主誰やねん

アサヒなんて名前の探索者おらんやろ



125:風吹けば名無し

伝説の探索者wwwwwwwww

小学生か?wwwwww



126:風吹けば名無し

でもコメント自体は的確やな。

現にヨミっていう女の子は確実に前に進めとる。



127:風吹けば名無し

おお、コメントで果たして初心者はどこまで進めるんや

3層以下はどうなるんや? ちょっと楽しみやな、宣伝してやろ。



128:風吹けば名無し

面白そうやな、俺もやってみるか

コメント頼りで探索するとか、ネタでもやらんわ

専用スレも立てるで

「人はコメントだけでダンジョンを攻略できるか」っと…



129:風吹けば名無し

もしヨミっていう初心者が突破できたら

アサヒってやつが伝説の探索者なのはガチやな



★★★


「まさか……ヨミの配信が、バズってるってこと……?」


 ヨミのダンジョン配信が、ネット上の物好きな連中に見つかってしまった。

 そして、彼らは面白がって、ヨミの配信を宣伝している。


 ネット掲示板の人々は、ヨミが「伝説の探索者」の導きで、ダンジョンを踏破できるのか? そして「伝説の探索者」は本物なのか、ということで盛り上がっている。


 そして、野原に燃え広がっていく炎のように、SNSに、掲示板に、まとめサイトに、ヨミの配信チャンネルの宣伝が口コミで飛んでいく。


(嫌な予感がする。まさか……うっ!)


 彼女のチャンネルを見ると、数人だったチャンネル登録者数はすでに1000人を超えていた。


 それを見るアサヒの顔色は悪い。ヨミのダンジョン配信にバズりの気配を感じた彼は、猛烈な不安を感じているのだ。


 そもそも、アサヒは人気配信者のダンジョン配信が好きではない。それに、急に人気になってしまった配信者は、ユーザーのことを粗末に扱いがちだ。


(ヨミが急に人気になったからといって、天狗になるタイプとは思えないけど……僕はそこまで彼女のことを知らない。どうなんだろう。)


 ヨミが冷静にこれらのバズりを受け止め、これまで通りの態度を取ったとしても、アサヒには別の不安がある。


 もしヨミが人気者になってしまったら、自分のことをこれまで通り見てくれるだろうか? アサヒにはその自信がないのだ。


 自分はダンジョンエアプ勢だ。自分の知識に比べたら、本当にダンジョンに入って攻略したことがあるコメント主が現れたらどうなるだろう?


 「伝説の探索者」である自分よりも、ずっと詳しい人が現れてしまったら?

 きっとヨミは自分のことに幻滅してしまうかも知れない。


 いや、きっと幻滅するに違いない。軽蔑すらするかも。アサヒはそう思った。

 

(――いや、絶対にそうはさせない。僕はヨミの期待を裏切らない。)


「こんな状態で誰かにダンジョンの情報聞いたら、絶対怪しまれる……今、ネット上で手に入る情報だけでなんとかしないと!!」


 アサヒは、ヨミのダンジョン探索を手助けした、『伝説の探索者』の正体で盛り上がる掲示板を閉じると、ダンジョンについての情報を集める事にした。


「そうだ、僕が『伝説の探索者』にふさわしい知識を身につければ、それはもう嘘じゃない。嘘を本当にするんだ!!」


 アサヒは力強く総宣言すると、あらためてパソコンの前の椅子に座り直した。

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