調べないと…!


「でも、ヨミが探索しているダンジョンって、最近できた『若い』ダンジョンなんだようなぁ……初心者だから、当然っちゃ当然だけど」


 この世界に現れたダンジョンは、現れてから年月が経つほど、内部のモンスターが強くなり、宝の質が上がる。そして、ダンジョンの複雑さも増す。


 そういったダンジョンは、高難易度ダンジョンとして知られており、国によって『災害級』『伝説級』と認定されているダンジョンもある。


 高難易度ダンジョンは、企業や国に雇われた、ベテラン探索者が行くところだ。

 アサヒやヨミに、とても手がつけられるようなダンジョンではない。


 ヨミがダンジョン配信を行ってたダンジョンは、出来てから一年も経っていない、東京の多摩の山奥にある『釜の淵かまのふちダンジョン』だ。


 出来たばかりのダンジョンは敵も弱く、宝も貧弱だ。

 しかし、構造もシンプルで、初心者でも探索しやすい。


 しかし、出来てから日が浅いということは、何を意味するか?


 それは、最深部までの詳細な情報がネット上に存在しない可能性が高い、ということを意味している。


 むしろそんな都合のいいモノがあったら、ニセ情報を疑うべきだ。


 ダンジョン攻略の知識は『かね』になる。


 ゴールドラッシュで一番儲けたのは、金を掘ろうとした連中ではなく、ツルハシや作業服を売り、彼らを運ぶ鉄道を引いた者、支えた者たちだ。


 この世界のダンジョン探索も、それと似たような状況にある。


 ダンジョンの攻略には、高度な技術と知識が必要で、事前の情報収集が重要だ。

 そこで、ダンジョン攻略に関する情報を提供するサービスが登場した。


 これらは「有料」と「無料」がある。


 有料のサービスはダンジョン攻略の初期に登場したもので、ダンジョンの探索に成功した探索者から直接情報を得て、それに軍事専門家や武術家による解説やアドバイスを加えて有償提供するものだ。


 例えば『ダンジョンワールド』と言った雑誌は情報が正確で、信用が置ける。

 しかし、これらの情報源は欠点として「遅い」というのがある。


 無料で拾えるネットの情報は、とにかく速い。

 ダンジョンが現れてから即日、あるいは数時間で情報が書き込まれる。

 しかし、無料の情報は問題がある。速いが「不正確」なのだ。

 

 特に『企業型ダンジョン攻略サイト』と呼ばれる、悪徳企業が出している無料の情報源は、とにかくタチが悪いことで有名だった。


 というのも、ダンジョンがこの世界に現れてからというもの、ダンジョンに関する情報は、世界中から必要とされていた。


 そうすると、悪徳企業が「ダンジョンの情報は金になる」と目をつける。


 ダンジョン関係の攻略サイトは、1日のページビューが数千万単位になるので、広告収入だけでもバカにならないのだ。


 そうした悪徳企業は、あらゆる手段を使って自社のサイトをネット検索のトップに出して、他のサイトから客をかっさらおうとする。


 そこでは、とにかく情報の速さが必要になる。いくらサイトがトップにでても、肝心の情報が「調査中」では、客はよそに行ってしまう。


 しかし、ダンジョンをマトモに攻略して情報を書くのは、とんでもない作業量が必要になる。『ダンジョンワールド』の情報が遅いのには理由があるのだ。


 ならばどうするか?

 悪徳企業はその解決策として、「他からパクる」という暴挙に出た。


 というのも、攻略法やダンジョンの情報は「事実」だ。

 つまり、ダンジョンの情報は、誰が書いても同じモノになる。


 だからパクったとしても、法律的に何ら問題ない。そう言うロジックだ。


 ダンジョンの攻略方法は「事実」であるため「攻略した結果、他の情報源と同じになった」と、済まし顔で言われたら、個人ではそれ以上追求できない。


 実際、それがバレて炎上した悪徳企業もいくつかある。

 だが、実際に罰を受けたりはしなかった。


 そうなると、悪徳企業はさらに調子に乗り、パクりパクられの闘いが始まった。すると、さらに悪夢のようなことが始まる。


 ダンジョンの攻略記事を書く者たちは、共有する攻略情報に、意図的にあるものを仕込んだ。そう……『偽の情報』を混ぜるようになったのだ。


 道のつながりはそのままに、嘘の特徴を書き入れる『トラップコリドー』。

 意味のない空き部屋を追加する『ペーパールーム』。


 こうやって探索者に害のない『偽の情報』混ぜることで、地図や記事をパクった不届き者が言い逃れできないよう、罠を仕掛けたのだ。


 本来は悪徳企業に対する罠だが、「伝説の探索者」がこれに引っかかったら?

 即座に「伝説の探索者」がエアプ野郎とバレてしまうだろう。


 それに、トラップの位置を隠すなど、実害のある偽情報もある。

 そうした攻略情報は、ヨミに渡してはいけない。


「ヨミを僕のコメントで危険には晒せない。慎重に情報を探らないと……」


 だが「ダンジョンが若い」というのは、かなりの悪条件だ。

 ネットの情報を探すが、不安を覚えたアサヒの手の動きはにぶい。


(……本当に僕に出来るのか?)








※作者コメ※

この世界のダンジョン攻略には、●ザップ、なんとかウィズとか、ダンジョン速報~神~とか、同じようなのがわんさかあるんやろうなぁ……


控えめに申して地獄では?

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