カルディア(1)
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「えっ、そんなぁ!」
アサヒは照明の落ちた派手な看板の下で、悲しげな声を上げた。
彼が次に行こうとした装備屋の「ドンキ・ホーダイ」だが、その扉は固く閉ざされており、シャッターには臨時休業を知らせる紙が貼られていたのだ。
(ネットで調べた時は、休業なんて事、どこにも書いてなかったのに……。)
店内の商品――つまり武器だが、その盗難を防ぐため、店の窓はすべて頑丈そうな鋼鉄製のシャッターが降りていた。
アサヒはシャッターの上に貼られた張り紙を見つめ、顔をしかめた。
茶色のガムテープで投げやりに貼り付けられた張り紙には、店が当分営業を再開しないことが書かれていた。
(参っちゃったな……張り紙によると、改装のため、2週間くらい閉めてるらしい。こういうのはちゃんと書いといてくれよなぁ……)
はぁ、と息を吐いたアサヒは、さっと
(予定よりずっと早いけど、閉まっているなら仕方ない。カルディアに行こう。)
彼は最後に訪れるつもりの装備屋「カルディア」に向かった。
しかし、店に向かうアサヒの顔は、あまり期待しているようには見えない。
(量販店であれだけの品揃えを見ちゃうとなぁ……個人店に行く意味あるかな)
実際、ユニクロークはその大きな店舗を活かして、種々の装備を用意することで、ダンジョン探索者のほとんどのニーズを満たしていた。
ユニクロークで「あれがない」「これがない」となることは、基本的にない。
だが、個人の店ともなると、店のスペースが小さいために、どこか
(いまさら規模の小さな個人店に行っても、ヨミが望むような装備が手に入るとは思えない。でもまぁ……ここは勉強と思って行ってみるか。)
アサヒが地図を頼りに進み続けると、彼は曲がりくねった路地に導かれた。
「ここって住宅街だよな……本当にこんな所に装備屋があるのか?」
不安そうにあたりを見回しながら進む彼の背中は、自然と丸くなっていた。
「うわ、ここって通っていいやつ?」
アサヒの眼の前には、植木鉢や自転車の並んだ小道があった。どう見ても私有地としか思えない。しかし地図によれば、この道で間違っていない。
(僕は泥棒じゃないですよ~っと)
おそるおそる、音を立てないようにアサヒは小道を歩く。
小道の幅は狭く、砂利を巻かれただけで舗装もされていなかった。
「あ……あれかな?」
小道を進んだ先で、アサヒは看板をぶら下げた家を見つけた。
ひっそりと立つそれは、どうやら自宅を店に改装したものらしい。
しかし店の周りにはまったく
「こんな分かりづらい住宅街の裏を通っていかないといけない、迷路のような場所に店を建てるなんて……本当に大丈夫かなぁ」
彼は店に近づいて、ぶら下げられている看板を見る。看板は大小様々な鉄の棒を草花の形に加工してつなげたもので、それは見事な細工がされていた。
「これ、お店の職人さんが作ったのかな?……あっ」
看板の下の方には国が装備屋に対して発行している認定証があった。
認定証には、剣と鎧を製作、販売する資格を所持していることが書かれている。
(これは……職人さんの工房ってことかな? 怖い人だったりしないかな)
看板の下でアサヒは、ブルッと身震いする。
彼はこの店の店主の姿を、岩のような大男で想像したのかもしれない。
扉の前でアサヒは店に入るかどうか、踏ん切りがつかない様子だった。
だが彼は自分の顔をひっぱたいて気合を入れると、扉に手をかけて力を入れた。
すると、ドアは良く手入れされているのか、軋む音ひとつ立てず、滑るように開いた。
アサヒは店に入って中を見回した。
こじんまりとした店内の品揃えは、ユニクロークと比べると確かに貧弱だ。
しかし、品質の方は明らかにユニクロークの装備より良いものだった。
「わ、これってフルプレートアーマーじゃないか」
店に入ってすぐ彼の目に入った鎧は、フルプレートアーマーという。
これは中近世の騎士が身につけていた、ほぼ全てのパーツが鋼鉄の板で構成されている甲冑のことだ。
この甲冑のオリジナルが造られていた当時もそうだったが、今の時代でも非常に高価で、プレートアーマーはダンジョン探索者なら誰もが憧れる鎧だった。
「なんだろう……上手く言葉にできないけど、明らかに「取って付けた」感がない。ユニクロークにある甲冑はこれに比べると、それぞれ別の人が着けていた物を寄せ集めたようにみえる」
アサヒは甲冑の全身をしげしげと見つめた。
「そうか、全部が自然にまとまってるんだ。ユニクロークにあった甲冑は、小手とブーツがどれも少しオーバーサイズだった」
アサヒの指摘は正しかった。
ユニクロークのグローブは、一般的な手に比べるとすこし大きめに作っている。フリーサイズとして作ることで、コストダウンを狙っているのだ。
ブーツもグローブと同じく、靴部分はサイズが細かく存在するが、すね当てや膝当てと行った補強部分は、数種類しか無い。
なので、フルセットで合せると、手足が微妙に大きく見えて、不格好なのだ。
しかし、ここにあるフルプレートアーマーは全てのパーツの収まりが良い。
それはこの甲冑が、一品物として作成されたことを示していた。
「あれ、そういえばドアにはベルみたいなのもないし……勝手に入り込んだみたいになっちゃったけど。大丈夫かな……」
「えぇ、大丈夫ですよ」
アサヒは不意に声をかけられ、電気にうたれたように反応した。
あまりにも静かだったので、彼は店の人がいないと思いこんでいたのだろう。
「す、スミマセン! 勝手に入ってきて!!」
「お店は勝手に入るものだよ。いらっしゃい『カルディア』へようこそ、お客様」
店の奥から現れたのは、温和そうな顔をした白髪交じりの壮年の男性だ。
きっと彼は作業の途中だったのだろう。年季の入った重厚な皮エプロンを外すと、店の入口にあったカウンターについて、アサヒに優しく語りかけた。
「さてお客様、何をお求めですか?」
「え、えーと……」
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※作者コメント※
装備回が続くけど……鍛冶屋モノとか好きだから
許してください! なんでもはしません!
次回からちょいちょい話が動いていきます
たぶんきっとメイビー
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