本当にありがとうございます!
※作者コメント※
視点を三人称に統一しました。
あと、防具についてアサヒが評価した部分を外しました。
この段階でアサヒが防具と武器に詳しすぎると、
エアプっぽくなかろうと言う判断です(そこ?!
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「うぅ……結局ほとんど眠れなかったな」
アサヒはヨミのために、ダンジョンの情報を調べるのを頑張りすぎたせいで、昨夜はほとんど寝れなかった。
いざ寝るかと思ってベッドに横になっても、彼は自分が調べたダンジョンの情報が完璧かどうかが気になって仕方が無くなり、もそもそとベッドを這い出して調べ直すということを何度も繰り返した。だからほとんどまとまった睡眠が取れなかった。
アサヒは暗い部屋でパソコンの文字を見続けた。そのせいで、部屋の白い壁紙にシマシマ模様が浮いているように見えていた。
「うぇー……気持ち悪い」
(あんまり頑張りすぎるもんじゃないな……。でも、僕の調査にヨミの安全――いや、命がかかってる。僕は「伝説の探索者」なんだ。だから、中途半端なことは出来ない。)
「うぅ~体がバキバキ!」
アサヒはあくびをして
「あっそうだ! ヨミのチャンネルはどうなってるかなっと……ッ!!!!!」
アサヒが彼女のチャンネルを見てみると、チャンネルの登録者数はすでに1000人を超えていた。つい先日まで一桁だったはずの登録者が爆増したことに、彼は驚きを隠せなかった。
「メチャクチャ伸びてる……」
そして、ちらっとチャンネルのコメントを見た彼は、そこにあった大量のコメントに圧倒された。
『ヨミちゃん登録者1000人超えおめでとう!』
『いえーぃ!ヨミちゃんへお祝いです! ジュース代です!』
「誰だこいつら……? ヨミに馴れ馴れしくコメント書いて……」
良くわからない連中が、ヨミに対して馴れ馴れしいコメントをたくさん残していた。
そのコメントを見たアサヒは、疎外感とコメントを書いた人間に対するイラ立ちで、頭がカッと熱くなって、心臓がドキドキ音を立てる。あまり寝ていないせいもあって、ただでさえ良くないアサヒの気分は、更に悪くなってくる。
「いや、気にするな。こんな雑魚どものコメント……なんてったって僕は――」
彼は彼女にとっての自分の存在を思い出す。
そうだ、僕は「伝説の探索者」アサヒなんだ。と。
こんな有象無象、馬の骨とは違う。きっとヨミもこんな奴らのコメントより、僕のコメントのことを大事に思っているはず。そう思った。
彼はヨミのチャンネルの告知を見た。ダンジョンの攻略配信は、今日の午前13時からあるらしい。今の時間は9時、配信の開始までには、まだまだ時間がある。
「ふぅ……今日が土曜日で良かった」
(学校のある日にあれだけ徹夜して調べ物していたら流石に死ぬ。週末だから普段より寝坊しても大丈夫だけど、平日だったらヤバかった。)
(ただ、週末ということは、ヨミは明日の日曜日も探索に行くよね。)
(僕にとってはデスマーチが続く。週末で良かったのか悪かったのか。とりあえず、ご飯を食べて、飲み物を取ってきて配信待機するか……。)
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ご飯を食べて、調べ物をしながら配信待機をしていると、アサヒのパソコンにセットしていたアラームが鳴った。
「おっと、もう始まる――えっ?!」
ヨミの配信を見た彼は、思わず声をあげていた。
画面に映っているのは、間違いなくヨミだ。
黒髪のロングヘアーをポニーテールに結んで、白いシャツに黒のスカートという学生服は昨日のまま。しかし――
シャツの上には銀色に輝く胸当てが付けられ、初心者用の短い剣と盾は姿を消し、
「ヨミはもう装備を新調したのか?」
しかし、ヨミが着込んでいる装備は、第一層と第二層を一回いって帰っただけの収入で買えるような装備には見えない。通常はもっと時間がかかるものだ。
(も、もしかして……。)
画面の向こうのヨミは、画面を向いて笑顔で語りかける。
「えっと……ウルトラチャット、でしたっけ? コメントをくれた皆さんのおかげで、装備を更新できました! ありがとうございます!」
(そうか……1000人も登録者がいれば、投げ銭するやつもいるよな……)
「今日のために、急いで装備を買ってきました! えっと、買ったのは……アーミングソードっていうのと……カイトシールド、あとブレストプレートです!」
「何を買ったら良いのか、コメントもくれてありがとうございます!」
どうやらヨミは、今日のダンジョン探索のために装備を新調したようだった。
その資金はチャンネルを登録した者による投げ銭だった。投げ銭の本来の意味は、大道芸人に対して通行人がお金を渡すことだが、転じてダンジョン配信者に対して、金銭の寄付をすることも投げ銭という。
その寄付を元手に、ヨミは装備を買ったのだ。
彼女の買ったアーミングソードは、血溝の彫られた刀身が根本から先にかけて細くなった長剣で、刀身は1メートル未満とそれほど長くなく、片手で取り回せる軽量な剣だ。
いくら体力があると言っても、ヨミは女の子だ。以前とさほど大きさが変わらない武器をもたせ、防御力の向上は盾を大きくすることで達成する。しかし、鎧を全くつけないというのも心もとない。そのため、胸当てだけの甲冑、ブレストプレートを組み合わせるのがよかろう。というのが、コメントを書き込んだ者の考えだった。
ヨミの戦闘スタイルは、盾で身を守り相手の後の先をとる――相手の攻めを利用してスキをつくという、カウンターが主体となる戦い方だ。
重装鎧はたしかに頑丈で生存性が上がる。しかし、重い鎧は体力を奪うし、戦いのスタイルも変わってしまう。最低限の鎧で、盾を頑丈なものに変えるだけという選択は、一般的に考えれば間違いではなかった。
「あの、本当にありがとうございます!」
ヨミがこの笑顔を向けられているのは、自分ではない。
そう思ったアサヒは、嫉妬の感情で頭の中がぐちゃぐちゃになった。
「……大丈夫だ、攻略が始まれば――僕は『伝説の探索者』なんだから」
ぎり、と奥歯を噛み締めた彼は、ヨミがダンジョンを進むのをじっと見守った。
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※作者コメント※
この作者、アサヒの感情ぐちゃぐちゃにするの好きだな…?
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