第8話(ジャーヘッド)
俺は先に運ばれてきたコーラを一口飲む。弥生は赤い手袋を取ってカウンターに置いた。そして、ホットコーヒーにガムシロップとミルクを入れて、ふーふーしてる。ハンバーガーが来るまで後5分といったところか。
「レイ君は、このお店何回目?」
「10回は来てるかな。家族で」
「そうなんだ」
弥生の顔が少し曇る。弥生の両親は全一教会の信者。家族で楽しい思い出がないんだろうな。
「弥生、何でち○んこ屋でハンバーガーを打ち出してるか解るか?」
「全然解んない。何で?」
「ここは横須賀ベースからもそう遠くないだろ? その昔、ジャーヘッドの大佐が来店して、大将にハンバーガーを要求したんだ。負けず嫌いの大将はアドリブで何とかハンバーガーを作り、ジャーヘッドの大佐に食べさせると、デリシャス! ジャパニーズコック、パーフェクト! と言って、それからメニューに加わったそうだ」
「フフフ」
良かった。弥生に笑顔が戻った。可愛い子は笑顔じゃなくちゃね。
「ところでレイ君」
「うん?」
「ジャーヘッドって何?」
「海兵隊の事だよ。その昔、多くの海兵隊の髪型がジャーみたいな形をしてたからジャーヘッドと呼ばれるようになったんだ」
「レイ君、物知りね。三毛猫の雄が産まれる確率もスパッと言ったし」
「勉強だけは苦手だけどね」
「不思議~、フフフ」
「こらこら」
「そうだ。ハビィの事なんだけど」
「ハビィがどうかした?」
「私が預かった子猫はもうやったんだけど、全一教会に取り返される前に予防線で、飼い主と個体をハッキリさせるために発信器を入れたの」
「そうか…………。今や法律で犬猫に発信器を入れなきゃいけないってテレビでやってたな」
「ハンバーガー食べたら、ハビィを動物病院へ連れてこ? 私も着いて行くから」
「午後はカラオケでもと考えてたが、善は急げだ」
「お待たせしました~! こちらがハンバーガーのS、ポテト。こちらがハンバーガーのLLとナゲットです」
姉ちゃん店員がハンバーガーセットを運んできた。
「ごゆっくりどうぞ~」
「わぁ、美味しそう。すごいパティ。肉々しいね」
「かぶり付こうぜ」
「うん!」
弥生がハンバーガーに一口かぶり付くと、口の周りにソースがベッタリ付いた。俺も豪快にかぶり付く。美味い!
「どう?」
「美味しい! そんじょそこらのハンバーガーじゃないね」
「良かった」
俺は気になってる事を弥生に聞いてみる。
「この後だけど。猫に発信器を入れるって、痛がらなかった?」
「うちの子は平気だったよ」
俺はハビィと会話できる分、説明してから発信器を入れてもらう事になる。嫌がらないといいけど。子供って注射嫌がるしな。もう一つ疑問が。
「弥生は、猫になんて名付けたの?」
「…………それが、色々考え過ぎちゃって。まだ正式に決まってないの」
「俺が決めようか」
「え、うん」
「ハビお」
「ダメ」
俺の感性が通用しない!? 弥生のこだわりを感じるぜ。
「じゃあ、オスプレイ」
「ダメ」
「メスプレイ」
「ダメ」
即答で却下。さすがにテキトー過ぎたか。
「レイ君、真剣に考えてる?」
「わりぃ、わりぃ」
弥生に見抜かれた。思い付きだって。
「一旦、保留ね」
「じっくり良い名前を見つけな」
「うん」
ハンバーガーが美味い。肉を食わなきゃやってられない。
俺達は食べ終えて、レジへ行く。弥生がポケットから財布を出した。
「ここは俺が払うよ」
「ダメ。割り勘にしよ」
「俺、LLのハンバーガーを食った訳だし、割り勘は良くない」
「せめて私の分は出させて」
さて、どうしたものか? 出すの出さないので時間食いたくないしな。
「わかった。自分の分を出して」
「うん」
俺は弥生から、ハンバーガーSサイズの金額をもらい、合わせてレジ係りに支払った。
「毎度ありがとうございました~」
「また来るね。行こ、弥生」
「うん」
俺達は、ち○んこダイニング・タツを出て、歩きで駅に行き、電車に乗って自宅マンション方へ向かった。ハビィになんて説明しようか? 多分、注射嫌がるだろうな。
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