第36話(全米が泣いた)

ーー俺の名前は鈴木節句。黒人と日本人のハーフだ。横浜陰茎学園ゴールド・メンバーズの副リーダー兼第1勢力リーダーをやってる。父親は俺が幼い頃に家を出ていった。母親は父親の写真を全て処分したらしく、俺は父親の顔を知らない。父親はアメリカ海兵隊ネイビーシールズに所属していたそうだから、有事の際真っ先に最前線に行ったそうだ。今となってはどうでもいい。身長2メートル近いガタイの良い遺伝子を残してくれただけで。


俺は幼少期から見た目でからかってくるような奴らの顔面をぶん殴って黙らせてきた。皆、俺を怖がってた。小学生低学年の時には不良憧れ程度の高校生ならボコボコに出来た。毎日ケンカ三昧だ。周りは敵ばかり。孤独だった。そんな時だ、天草とマキが俺の前に現れたのは。二人は俺を差別せず、普通に接してくれた。俺達はすぐに意気投合した。二人は俺に負けず劣らずケンカが強かった。天草はそんなにでかくないがスピードの速い攻撃を得意としていた。マキには、相手が男の不良だろうが徹底的にボコボコにするから狂気を感じた。マキは華奢なのに考えられない攻撃力を持っていた。何か秘密があるのだろう。


俺が中学生に上がった頃、天草とマキは付き合いだした。俺は一応、二人を応援する。幼なじみとはいえ、狂気を感じるマキと付き合う天草を尊敬する。


高校は三人とも横浜陰茎学園に進学した。不良学園の天辺を取るのは俺か天草か、切磋琢磨した。しかし、横浜陰茎学園はただの不良学園ではなかった。裏で警察と繋がっていた。代々、薬物に溺れる他の不良学園を攻撃しているそうだ。俺と天草は当時のキャプテン・ジャパンに見出だされ、すぐに頭角を現し、弱っちい勢力なら簡単に潰せた。だが、血便馬鹿山学園だけはなかなか牙城を崩せないでいた。勢力では横浜陰茎学園のが強いはずなのだが。二年生の終わりに天草が三年生の身辺調査を始めた。三年生の一部が怪しいと踏んだからだ。天草は何か情報を掴んだみたいだ。そんな時に天草はバイク事故で意識不明になった。


俺が三年生に上がると、登校初日に一年生の瀬名レイと会う。瀬名は一人でゴールド・メンバーズ第1勢力の中心メンバー50人をのしてしまった。俺は覚悟を決めて瀬名と対峙した。俺のフルパワーストレートをいとも簡単に止めやがった。瀬名のカウンターで腕を取られ肩の関節を極められしまい俺は敗けを認めた。その直後にバリカンが金属バットで瀬名の頭をぶん殴ってしまった。瀬名はすぐに保健室に運ばれた。俺とマキは相談して、圧倒的に強すぎる瀬名をゴールド・メンバーズのキャプテン・ジャパンに任命した。瀬名が意識を取り戻して、その事をマキが伝えると、すんなり引き受けたそうだ。


そして天草の意識が回復して、血便馬鹿山学園の真のアタマを教えてくれた。先代のキャプテン・ジャパンの高町(たかまち)だそうだ。高町の不審な点は俺も幾つか知っていたが、最大の敵に寝返るとは思いもよらなかった。高町は裏で東京犠牲者学園と繋がってるらしいが、これについては証拠がないそうだ。


瀬名がキャプテン・ジャパンに就任して二週間ほどした時。運転係の報告によると、キャプテン・ジャパンを家に送り届ける途中で血便馬鹿山学園の機動部隊と遭遇したそうだ。一戦交えるかとした時、落雷で血便馬鹿山学園の連中が全滅したそうだ。運転係によると空は晴れていた。キャプテン・ジャパンか、クララという女のどちらかが魔法を使ったとしか思えない。俺はクララという女が魔法使いだとみている。俺の知らないところで何が動いてる。マキを問い詰めて聞き出したいところだが、まだ死にたくない。マキは怖いんだよな。


俺のモヤモヤとした気持ちをどう晴らそうか? だから、キャプテン・ジャパンに特設SNSで探りを入れた。ヒグマに潰された目が治ったようだ。マキは回復魔法が使えるとみている。クララという女は攻撃魔法が使えるのだろう。


3日後。ヒグマに殺された一年坊の通夜に出席した。キャプテン・ジャパンはクララという女を連れてきていた。余程大切な女なのだろう。


俺は帰りに天草が入院している病院に寄る。ちょっと様子でも見てくか。病室に入ろうとするとドアが開き、20代半ばの女が出てきた。派手な格好だ。水商売か? この人は天草の姉ちゃんだ。面識はあるが、気付かず急いで歩いて行った。俺は中に入ると、天草が窓から外を見ていた。


「天草?」

「鈴木か。姉ちゃんとすれ違ったろ。売上ナンバーワンから転落したんだと。やっぱ、キャバクラに来る客なんてより若くが良いのかな?」

「キャバクラの客なんてロリコンだけだろ」

「そうだね」

「脚の具合はどうだ?」

「ボルトをブチ込んだ。思ったより早く治りそうだ」

「無理はするなよ」

「大丈夫。それより、血便馬鹿山学園の件はどうする?」

「潰すさ。こっちには史上最強のキャプテン・ジャパンが居る。それと魔法使いも」


魔法使いと言ったのはカマ掛けだ。天草はどこまで知ってる?


「魔法使いって何? 30歳以上の童貞を支配下に置いて戦力になるの?」

「いや何でもない、忘れてくれ」


天草は白だ。魔法使いが居るのに気付いてない。身近に居るのにな。


「高町の事、頼んだよ」

「瀬名に任せろ。アイツにケンカで勝てる奴は居ないだろう」

「お前もだろ?」

「俺? 俺は瀬名に勝てない。闘ってみて分かっている」

「キレた鈴木は誰にも止められない」

「ゾーンに入ればな」

「鈴木がキレたら全米が泣く」

「意味が解らん」

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