第35話(裏切りの先代)

俺は自分の部屋に直行した。クララはバスルームに直行した。自分の部屋の明かりは点いていた。ハビィがパソコンでロイヤルちんまんをプレーしている。おそらく最速の猫だろう。命中率も良い。


「ハ~ビィ、ただいま」

『お帰りー。テレビで横浜陰茎学園の近くにヒグマが二頭も出たって観たけど、大丈夫だった? って! Tシャツに血が付いてるよ!』

「熊二匹殺っちまった」

『やっぱりレイか。そりゃそうだよね。熊同士が殺し合いする訳ないよね』

「熊に0.5秒の硬直が効かなくてさ、目をやられたんだけど、異世界のプリンセスに回復魔法で治してもらった」

『何々? 話が渋滞してる』

「石破天驚流奥義と亜型奥義を使って大変だったんだから。殺生なのに楽しかった。相手が強かったからかな?」

『回復魔法は王家の証だよ』


俺はハビィに順を追って今日の出来事を説明した。話し終わるとハビィは考え込んでる様子だ。すると、俺の携帯電話に着信が来た。ゴールド・メンバーズの特設SNSに鈴木からだ。


【ヒグマに血便馬鹿山の連中と、今日は散々だったな】


俺は鈴木に返信する。


【運が味方してくれた。大した事じゃない】

【ヒグマに目をやられたそうだが、治ったみたいだな。何があった?】


くぅ~! 鈴木の奴、俺が返信出来たことで目が治ったとカマを掛けやがったな?


【自然治癒だよ】

【んなアホな。マキだな?】


また返信しにくい事を。無視すると余計に怪しまれる。


【ハンドパワー】

【とぼけるな。マキに不思議な力があるのは薄々気付いてる。どんな仕組みだ?】

【ハンドパワーは嘘じゃない。てか、気になるなら本人に教えてもらえばいい】

【マキが俺に教えてくれるなら、キャプテン・ジャパンに聞いてない】

【マキは多分、敵じゃない】

【それは分かってる】


話を反らそう。


【血便馬鹿山学園は横浜陰茎学園と敵対関係にあるって西園寺から聞いたけど、潰しに行こうか?】

【それについてもだ。晴れてたのに落雷があったそうじゃないか。お前、魔法使いか?】


西園寺めぇ、鈴木に余計な報告をしやがって。誤魔化すか? それとも全部話すか? いや、マキとの約束がある。鈴木を取るか、マキを取るか…………。マキの方が怖そうだ。誤魔化そう。


【魔法が使えるなら普通のSNSでバズり動画をアップしてるよ。動画クリエイターでチャンネル登録者数5億人も夢じゃない! SNS総フォロワー20億人!】

【怪しいな】


鈴木の奴、妙に勘がいいな。やはり陰の統率者。誤魔化し二段目!


【それより、血便馬鹿山学園の情報が欲しい】


バサッ! バサッ! 何の音だ?


『カー! カー! 開けてくれ』


ベランダにカラスが。言葉を喋った。お利口さんだな。ハビィがロイヤルちんまんを止めて足元に来た。


『レイ、このヤタガラスが田吾作だよ。窓を開けて』

「分かった」


俺は窓ガラスを開けた。田吾作はバサッ! バサッ! っと羽を広げて部屋に入ってきた。


『会うのは初めてだな、ハビィの飼い主、瀬名レイよ』

「ああ。ハビィがいつも世話になってる」

『何か情報が入った?』

『うむ。大魔法使いメフィストが王族を裏切って逃げたそうだ』

『ああ~、それなら…………。ねえ、レイ』

「そうだよね」


田吾作が知らないのも無理はないか、この家にその大魔法使い様が居るって事を。


『田吾作、メフィストの事なんだけど。この家に居るんだ』

『冗談はよしてくれ。泣く子も黙る大魔法使いクララ・メフィストだぞ?』

「血便馬鹿山学園の不良連中に雷を落とすくらいだからな」

『え?』

『マジなんだ、田吾作』

『…………ワープ!』


田吾作の姿が消えた。これがハビィが言ってたヤタガラスの固有魔法か。しかし。


「アイム・ナンバーワン」


田吾作の姿が一瞬だけ見えた。0.5秒の硬直は魔獣には効いて、動物には効かないのか。俺は隙を逃さず田吾作の首根っこを掴む。バサッ! バサッ!


『分かった分かった、降参する』

「クララは味方だ。俺はクララのボディーガードをやってる」

『大魔法使いにボディーガードなんて必要か?』

「暗殺者に死霊刀って仕込み刀で、あと一歩でタマ取られる寸前で俺が助けたんだ。死霊刀をへし折ってやったよ」

『大魔法使いメフィストと言えど、接近戦に持ち込まれたら不利か。それにしても噂に聞く死霊刀をへし折るとは。魔法で鍛えられた刀の中でも特別な代物らしい』

「折らずに奪い取った方が良かったかな? 真剣白刃取りしたんだけど」

『ちょっと待て。死霊刀の刃に触れて無事なのか?』

「どういう意味? 無事だけど」

『死霊刀は魂を奪うと言われてる。瀬名レイはかなり霊力が高いとみた』

「バレたか」

『逃げないから、そろそろ放してくれないか』

「ああ、わりぃ」


俺は田吾作を解放した。


「レイ、そのカラスは魔獣か?」

「うわっ! クララか」


クララが部屋に入ってきた時、気配がなかった。今朝もそうだ。寝てても誰か来たら気配で察知出来るのに。びっくりするじゃねえか。やはり大魔法使いだな。


『ごめんなさい! ごめんなさい!』


田吾作の奴、クララに向かって土下座してる。


「何を謝っておるのじゃ」

『え? 怖いからなんとなく』

「お前、ヤタガラスの魔獣か。焼き鳥や水炊きにせんから安心せい」

『ヒィー!』


田吾作はクララにかなりビビってるな。まあ、クララは地球を粉々に出来るパワーがあるそうだから、俺はハンドリングを間違わない事だな。あ、鈴木をほったらかしだ。諦めてくれるといいが。俺は携帯電話を見る。


【キャプテン・ジャパン、血便馬鹿山学園には気を付けろ。先代のキャプテン・ジャパンとその周辺がシメてる】

【冗談だろ?】

【マジだ。これが天草が掴んだ情報だ。これは、俺と天草とマキとお前の四人しか知らない。しばらく、トップシークレットで頼む】

【分かった】

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